ビルバオまでの高速道路は山に囲まれた山岳地帯を貫いており、やがて左側には岩肌がむき出しになった高い山が連なり、時々狭い土地に中高層の住宅や建物が集まった町や工場が現れます。
かなりの人口規模と思われる都市がいくつかあるのは、機械産業などの一定規模の産業集積があるのではないかと思われます。ただ、山岳地帯の谷のまわりに丘陵地帯が広がり、特に農業が盛んな地域とは思えません。
約1時間でビルバオの街が突然姿を現わします。山に囲まれた狭い平地にビルがぎっしり並んでいます。バスターミナルは市街地のはずれにあります。かなりの規模のバスターミナルです。タクシー乗り場も近接していて、乗り換えがスムースでした。
タクシーの運転手はサービスが素晴らしい。窓の外のビルバオの名所やバル、レストランなど次から次へと熱心に大きな声でガイドしてくれます。残念ながらスペイン語のため、理解できたのは半分程度でした。バスターミナルを出るとサッカースタジアム、サン・マメスSan Mamesの横を通りました。隣接した土地では新しいサッカースタジアムのサン・マメス・バリアが建設中とのことでした。かなり、公共投資が行われている様子で、公園や道路が整備され、民間の構想ビルも立ち並んでいます。
ビルバオで宿泊したホテルはシルケン・グラン・ホテル・ドミネSilken Gran Hotel Domine。ビルバオのゲッゲンハイム美術館の真向かいに立地する5つ星のホテルです。
この美術館のシンボルでビリバオ市のシンボルでもある「パピー(Puppy)」、彫刻家ジェフ・クーンズ氏による鉄の骨組みに種々の花々を植え込み、子犬の形に刈り込んだを大型作品を部屋の窓から見ることができます。単に、美術館の眺めが良いだけでなく、ホテル自体もかなりアートを感じるホテルです。
特に、シースルーエレベータはゲッゲンハイム美術館のものにそっくりです。
既に既に午後6時を過ぎ、夕暮れ時ですが、街を少し散策しました。
街角の彫刻や街並みのデザインの統一性、独特な地下鉄入口のデザイン、並木道、花壇など、随所に文化的なレベルの高さを感じる街でした。
特に新市街の中央に位置するプラザ・モユアPLAZA MOYUAという広場は、ここから放射状に道路が広がり、ロータリーの中央の花壇には色とりどりの花が咲き乱れるなど、この街らしい快適な都市空間となっています。
ユニークな地下鉄の入口は英国人のノーマン・フォスターの設計によるものです。
ここから旧市街に向かう通りは、車道の倍以上もある幅の広い歩道と緑が茂った街路樹やベンチが続く快適でおしゃれな通りで、両側にはLOEWEなどの高級なブティックが並んでいます。かなりの人出です。
街路灯やラコステの店の前の彫刻も、重厚なものです。
ディプタシオン通りDiputacion Kaleaという歩行者専用の道路には中央にガラス張りのカフェがあるなど、日本では考えられないおしゃれな空間の演出がされています。
そのほか、歩行者専用道路が縦横に整備され、街角にはベンチや樹木の茂る小公園があり、ショッピングや街歩きに快適な都市空間設計には驚くばかりです。
また、ファン・アフリアグエラ通りの街並みは、バスクでもビルバオの旧市街に良く見られる特徴的な縦方向に連なる独特の鉄格子の窓が見られます。スーパーもこのような街並みに溶け込んでいます。
時間もないので、市外散策は早々と切り上げ、ゲッゲンハイム美術館に戻って来ました。この街の観光の中心は何と言ってもゲッゲンハイム美術館でしょう。1997年の開館で、アメリカのソロモン・R・グッゲンハイム財団の設立したニューヨークのグッゲンハイム美術館の分館の一つである。フランク・オーウェン・ゲーリー設計の巨大でユニークなチタニウムの板で構成される外観、それ自体が芸術作品ともいえる建物です。
これに比べて、館内の展示物はリチャード・セラの鋼鉄製の板で造られた作品「時間の問題The Matter of Time」など、部屋全体が展示物であるような巨大なものが多いのが特徴です。
その大きさの割には魅力がないような気がします。金沢の21世紀美術館や青森県立美術館など、小規模な現代美術を見慣れているためでしょうか。建物の迫力に追いついていないような気がします。
ジェニー・ホルツァーの 「インスタレーション・フォー・ビルバオ」は巨大なLEDの光線に電飾文字を浮かび上がらせたものですが、流れてくる文字の内容が面白いです。
ただ、連日午後8時まで開いているのは良いことだと思います。食事時間が遅いスペイン人の時間感覚もあるのでしょうが。ただ、中のレストランは8時30分にオープンするので、一旦外に出なければならないという問題があります。
屋外にも大規模なオブジェがあります。リチャード・セラの巨大な金属の作品や六本木ヒルズにもあるアメリカの彫刻家ルイーズ・ブルジョアLouise Bourgeoisによるクモのオブジェ「ママンMaman」もその一つ。ニューヨークのグッゲンハイム美術館、オタワのカナダ国立美術館など世界に9つあるものの一つのバージョンです。
ビルバオでの唯一の夕食はこのゲッゲンハイム美術館のレストラン「ネルアnerua」でとりました。ミシュラン一つ星のレストランです。この美術館にはレストランのほかビストロもありますが、こちらのレストランはサン・セバスチャンの三つ星レストラン、マルティン・ベラサテギがプロデュースし、スペインの若手で注目される料理人ホセアン・マルティネス・アリハJosean Martínez Alijaがシェフをつとめるレストランです。
ディナー・タイムは8時30分からで、既に美術館は閉館しているため、クモのオブジェの近くの入り口から入ります。まず、ダイニングルームに入る前に厨房を案内していただきました。一見普通の厨房ですが、良く見ると見慣れない機器がありました。これが例のマルティン・ベラサテギの分子料理に使う機器なのでしょうか。
ダイニングルームは白を基調とした清潔感のある部屋です。メニューはデギュスタシオン・コースが2種類ありましたが、アラカルトから選ぶことにしました。
アペリティフはルイ・ロデレール・ブリュット・プルミエを。
鰻の稚魚のような、シラウオのようなアミューズ。
前菜はキノコ、野菜のスライスとブラジルコーヒーHongos, lágrimas de verduras y café de Brasil深い香りと味わいのある季節のキノコと野菜が、煮汁をベースにしてコーヒーを合わせた濃厚なソースで和えられています。
ロブスターとアンディーブのコンフィBogavante Endibia Confitadaロブスターの香ばしい香りとしこしこした食感、爽やかなソース。これは少量ながら凝縮感のある味わいです。
イカのコンフィChipirones Confitadosは小さいイカが丸ごとスパイシーにコンフィされています。ちょっと縁日の屋台で見られるイカ焼きのようで、素材がシンプルなだけに、これだけ量があると飽きてきます。
ハタ、ローズマリーとカブのピクルス添えMero al Romero(Grouper with rosemary,pickled turnip)。淡白な味わいの白身魚が、ハーブの香りのソースとともに、皮はカリッとしていて、身はふんわりジューシーな食感です。
子羊のあばら肉、発芽米とニンジン、マスタードRack of lamb, rice germe with carrots and mustardは大きな塊のように出されましたが、ロール状になっていて、肉質は柔らかくジューシーでした。
イチゴ、紅茶のアイスクリームとケフィア(ヨーグルトきのこ)Strawberries black tea icecream and kefir
ピュアなチョコレートとスパイシーなマジパンのサンドChocolate puro, arena picante de mazapán
ワインはソムリエに選んでもらい、グラスの白ワインは日本でもENOTECAが輸入しているENATEのゲヴェルツトラミネール(Gewürztraminer)とルエダのヴェルデホでつくられたQUINTA APOLONIAを。赤ワインは国外に輸出されていないワインのボトルをソムリエに要望したところ、リオハのSEÑORIO DE CUZCURRITAを選んでいただきました。モダンタイプと伝統タイプを組み合わせたテンプラニーリョ100%のワインだそうです。
デザートにはスペインではないのですが、イベリア半島の隣の国ポルトガルのポルトPorto Pocas LBVを合わせました。
全体的に創作性よりは素材の特性を生かすことに重点を置いた伝統的な西洋料理で、サプライズはないものの、調理技術のレベルの高さが感じられました。