学校は旧市街の海岸に近い古いビルの1階にある、事務室と教室、料理実習室からなる規模の小さい家族経営の学校です。常勤の講師は4人でいずれもシェフだそうです。ほかに大学教授など外部の非常勤の講師が指導に当たります。期間は2年間、日本人も常に1人は来ているそうです。料理の実学中心の学校です。料理技術をオープンな環境の中で勉強できるのが特色です。従来のレストランは料理技術を企業秘密としてオープンにしなかったため、技術の伝承が十分になされていなかったという反省のもとに、世代交代を進めるため、オープンな思想の料理学校をつくったとのことでした。レストラン経営などのマネジメントは希望があれば教えるとのことですが、あくまでもメインは料理技術の習得にあります。
このため、実習室は本物のレストランの厨房と同じ規模で、設備も同様なものとなっています。学生は各学年28人で、半分の14人に分かれて実習と座学を午前と午後に分けて行うとのことでした。実習は4グループに分けて、実際のレストランと同様にチームプレーで料理をつくっていきます。レストランで即戦力となることを目指しているようです。日本の調理師専門学校に比べると、驚くほど規模は小さいのですが、20年の積み重ねにより、教育内容はかなり実践的で充実しているように思えました。
卒業生には就職のあっせんもされます。卒業後、サン・セバスチャン周辺のレストランで1~2年修業の上、故郷に帰っていくケースが多いようです。日本人の卒業生で結婚してサン・セバスチャンでレストランをオープンさせた人もいるとのことで、コンチャ湾に沿った海岸のトンネルの向こうの方にあるメソン・チュビージョMeson Txubilloというレストランだそうです。このようにして、レストランの人材が継続的に育成され、サン・セバスチャンの食のレベルが高まってきたのでしょう。
函館のスペインレストラン「バスク」のオーナーシェフの深谷宏治氏は、ルイス・イリサール氏のもとで修業し、20年来の親友だそうで、何度もサン・セバスチャンを訪れたことがあり、ヴィルヒニアさんも函館に行ったことがあるそうです。
私の故郷沼津についても観光パンフレットをお見せして食堂街などを説明したところ、サン・セバスチャンと似たところの多い街に関心をもっていただきました。バスク・クリナリーセンターが4年制大学と研究開発の拠点として、国際的レベルでの調理科学技術の発展を目指すのに対して、ルイス・イリサール料理学校は実践的な人材育成による調理技術の伝承を通じて、地域における食文化の維持発展の役割を担ってきたものであり、食文化による地域の活性化を目指す沼津の人材育成のために、このような学校がほしいところです。
ルイス・イリサール料理学校のホームページ
Escuela de Cocina Luis Irizar