フォーシーズンズ香港の6階にあるフランス料理のミシュラン3つ星レストラン。アジアのレストランベスト50の12位。天井からクリスタルグラスのシャンデリアが吊るされ、ラグジュアリーな雰囲気のオープンキッチンのダイニング。1月前の予約により窓際席を確保した。ヴィクトリア湾のハーバー・ビューが美しい。特に、6階位に位置するため、照明を落とした室内からは、湾を航行する船よりも正面に位置する九龍のビル群の夜景が美しい。ムードあるダイニングルームである。ただ、メニューが読みにくいのが難点。
シャンパーニュはソムリエの薦めるブラン・ド・ブランの白を選ぶ、ジャック・ラセーニュ・モングー(ブラン・ド・ブラン)Jacques Lassaigne Montgueux.。日本ではあまり聞かないレコルタン・マニュピラン。フレッシュだがコクと複雑性のあるシャンパーニュである。
アミューズその1は3点盛り合わせ。スモークサーモンとディル、ジャガイモのガレットに細かい野菜とコリアンダー、スプーンにのったプチ・トマトとミントは酸味と甘みのバランスが良い。
パンはソフトなものとハードなものを一つずつ選ぶ(写真が不鮮明ですみません。)。バターは無塩バターと有塩バターが別々に盛られている。
アミューズその2は角切のマグロをワサビとコリアンダーで和えたもの。たぶん和をイメージしたヌーベル・キュジーヌで創作性の高いフレンチだろうが、日本人であるためか、今一つサプライズがなく普通に見えてしまう。我が家でも時々食べるマグロとアボガドのワサビ醤油和えに似ているからだろう。
料理はワインペアリング付きのコースメニューも魅力的だが、量が多そうなので店のスペシャリテ中心にアラカルトから選ぶことにする。
マネージャーのお薦めを聞くが、前菜の2品はこちらが予定していたものと全く同じで、一つは蟹のティラミス。もう一つはラングスティンのラザニア。
メインはいずれも鳥料理で、ブレス産鳩のフォイエテとシャラン産鴨のロースト、いずれもスペシャリテだそうである。
ワインはソムリエが何とハーフボトルで赤白1本ずつ薦めてくれたものをいただいた。その内容が素晴らしい。白は2008のアルベール・グリボーのムルソー。赤が同じく2008のアルマン・ルソーのジュブレ・シャンベルタン。村名格ながらそれぞれの村を代表する評価の高い作り手をハーフボトルで揃えた2008ヴィンテージ。すごいセレクションである。
カニのティラミス、フルーツのマリネ、タンドーリ・スパイスとスイート・ピメントンTourteau Crab Tiramisu – Fruity Marinade, Tandoori Spices and Sweet Pimento。こちらは本来正方形のカットを2分の1にシェアしてくれたが、それでもかなりの量である。表面がマヨネーズ系のソースで少し甘い。その下の層にカニのフレーク、さらに下にマンゴー、オレンジなどマリネしたフルーツ、その下が甲殻類の香ばしいビスキュイの3層構造である。甘くクリーミーなマヨネーズソースとフレッシュで瑞々しく味の深いカニの相性が最高。ふんわりとした食感に繊細でエレガントな味わいである。表面にはインド風のタンドーリ・スパイス。まわりにはパプリカのソースが付く。
ラングスティンのラザニアLangoustine Lasagne – Veal Sweetbreads and Chanterelle Mushrooms in Shellfish Bisque。点心の皮のような薄くとろけるようなラザニアの皮の中に、丸いラングスティンとリードヴォー、甲殻類のビスキュイに包まれたジロール茸。海老は香りが強く甘く垂直的でクリアな味わいと食感であるのに対して。添えられたリードヴォーとジロールは内向的で土や腐葉土の香りなどの複雑な味わいで対照的だ。これもエレガントな逸品である。
シャラン産鴨のフィレ、鴨の足の煮込み、空豆、セヴネス玉ねぎのタルト・タタンChallans Duck Fillet – Broad Beans, Braised Duck Leg and Cévennes Onions Tatin。
火入れのレベルが高く、肉がきれいに焼きあがっている。シャラン鴨はガムのように噛み切れなくなるケースが多く、このようなしゃきっとした肉質の食感の楽しめる火入れの良さは相当の技術だろう。別に添えられた付け合わせのタルト・タタンは玉ねぎと細かい牛肉のミンチが甘くふんわりしていて、独立した一つの料理としても完成度が最高であった。
ブレス産鳩のフォイエテ、ペリゴール産ブラック・トリュフ、フォワグラ、スイス・チャード添えBresse Pigeon – Sweet Garden Peas and Oriental Pigeon Leg in Lemon Olive Oil Sauce。
ブレス産鳩、グリーン・ピース、東洋産鳩の足・レモン・オリーブオイルソース。こちらも焼き加減が最高。柔らかくジューシーな鳩肉。表面は皮がこんがり香ばしく、広東料理の肉料理と共通するテクニックが感じられ、特に、鳩料理は広東料理として有名なので、比較対象として調理レベルの高さを要求されるのだろう。セリがまぶされたハーブの香りのあるミンチのジューシーなミート・ボールに、レッグが串刺しになっているのは、どこかユーモラスである。
アヴァン・デセールの盛り合わせ。中央が紅茶のアイスクリームのアーモンド・クリーム・ソース添え。まろやかで濃厚な味わい。カリカリのビスケットに添えられたフルーツの桃のジュレとメレンゲはどこか東洋的である。
ほぼ同時に、アヴァン・デセールのその2はチョコレートとマカロン。これだけでも、1つのデセールに相当する相当のボリュームである。味はパリの3つ星レストランのレベルと遜色ない。
メインのデザートはモンブラン。日本の洋菓子店にあるモンブランとはかなり異なる。マロン・クリームの下は果肉の入ったオレンジのソルベとジュレ。その下がタルトになっていて、スポンジやクリームはない。クリームの味わいは濃厚だがフレッシュで酸味と甘みの豊かなオレンジ・ソルベとジュレによりバランスがとれている。
ワインはデザート・メニューの右側に掲載されたデザート・ワインのメニューから甘口の熟成したコンドリュウを合わせる。香りが近いオレンジに良く合う。
カフェと同時に小菓子。こちらは包んであるので、持ち帰らせていただいた。濃厚でクリーミーなヌガーはパリの味を思い出させる。
3時間余りのディナーをアラカルト中心にゆっくりと楽しむことができた。量は多めなので、ハーフ・ポーションが可能なものは、お願いするといいだろう。落ち着いた、ムードのあるリッチな雰囲気、優れたワインのセレクション、サービスレベルの高さ。どれをとっても3つ星レストランにふさわしいものであった。アジアを代表するフレンチレストランであることは間違いないだろう。