札幌市の円山のふもと、東西線円山公園駅から10分ほどの静かな住宅地にあるレストランMiYa-Vie ミヤヴィ。札幌ガストロノミーツアーの〆に伺いました。3時間にわたって、ゆったりとしたランチを楽しみました。
テーブルセッティングで位置皿の上に「MiYa-Vieなおもてなし」と題するメッセージ・ペーパーがあり、シェフの料理に対する思いが、MiYa-Vieの心として、綴られています。
○プティブシェ
レンズ豆、フロマージュブランと鶉の卵、黒糖と酸味をアクセントに
クリーミーなチーズソースにレンズ豆とふんわりとした食感のウズラの卵。旨味のある複雑な味わいです。クミンの入った南インドのパパドゥ風のチュイールが添えられています。いきなりの香りと食感のコンビネーションに、これからの料理への期待が高まります。
ランチやディナーごとに焼き上げる焼きたてのパンにはシェフの思いが込められています。「サクッ、サクッ」とカットするきれいな音が隣の部屋から聞こえ、期待が高まります。外は香ばしく、さくっとして中はしっとりしたパンはこれまで食べたパンの中で最高のもの。これだけ感動する店は少ないでしょう。
○MiYa-Vie のシンボルマークから
様々な葉野菜、実野菜、根野菜を海の香りでつつみ、ブイヨンで茹で上げられた温野菜。カットされた多くの色とりどりの新鮮な野菜、個性豊かな春野菜の香りと味わいを楽しみます。
○湯掻いたグリーンアスパラガスとその泡立てたソース
桜の香りを纏った名古屋コーチンと天然真鯛のマリネ、スダチの香り.主役のアスパラガスの湯掻き具合が絶妙で、程よい繊維の食感と甘く瑞々しいジュースを味わうことができます。桜の葉の塩漬けを薄くまとった名古屋コーチンの甘さと真鯛も塩と砂糖で軽くマリネされ、軽く弾力ある、ねっとりした食感です。
○筍と春キャベツのクリームに浮かべた帆立貝、
自家製パンチェッタ、アーモンド、黒胡麻と蕗の薹
主役は筍。筍の豊かな春の香りを味わう料理です。春キャベツも優しい春の味わいで、筍のサワークリームとともにほのかに甘く繊細な味わいの料理でした。ただ、香りが強くボリューム感がある黒胡麻により、繊細で微妙な筍と春キャベツの風味が消されがちであったのが少し残念なところです。
○桜鱒の蒸し焼き、白花豆と山独活のピューレ、山葵、時季の葉、卵とエシャロット.
この季節の札幌でのフレンチ4軒すべてで出された食材が桜鱒。居酒屋でも炙り刺身をいただきましたが、脂もあって優秀な旬の食材です。横須賀シェフもこの季節に桜鱒を定番食材にしているとのこと。白花豆の優しい味わいを桜鱒の春の暖かくしっとりした味わいと合わせ、春の香り野菜を重ねる一方、山独活や山ワサビで味を引き締めていました。
○香ばしく焼き上げたキンキの一夜干し、蕪のフラン、
バターでコンフィしたジャガイモ“インカの目覚め”、日向夏の香り。
ミシュラン掲載の逸品がランチでいただけます。キンキの皮の香ばしさと甘い脂ののったねっとりとなめらかな白身が素晴らしい食感と味わいです。さっぱりした蕪のフランと甘いインカの目覚めにトロリとキンキの旨味が抽出されたブイヨンが絡み、凝縮感ある濃密な味わいの料理です。
○和歌山県産窒息鴨のロースト、内臓のソース、
フキとそのソース、ピスタチオとレモンの香りを添えて.
メニューにはこのようにありましたが、連れの要望で、襟裳産短角牛のモモのローストに変えてもらいました。この皿では、フキに日本料理では味わえないエレガントな旨味があって感動しました。短角は和牛の中では脂が少なめですが、モモ肉のためさらに少なく、やや硬質な味わいでした。たぶん、コースであらかじめ用意されていた鴨の方が良かったのではないかと思います。
○煎茶の香るホワイトチョコレートのクリーム、柚子のアイスクリーム、
マイヤーレモンの酸味と桜の香り、アーモンドのサブレ
ロール状の煎茶の香りのホワイトチョコレートのクリームロールは濃厚で緻密なリッチで凝縮感のある味わいですが、抹茶ではなく煎茶と合わせているため、軽やかな香りで重くならず、アーモンドサブレのタルトと桜のピューレがかかった柚子やマイヤーレモン(オレンジとレモンの自然交雑)の爽やかなアイスクリームと合わせて、春を優しく感じるエレガントなデザートになっています。料理人のセンスの良さを感じる一品。
○ミニャルディーズ
日本人の平均的食事の量を考えて、お持ち帰り可能なケーキを焼いて、用意してくれています。家に帰っていただきました。シンプルながら、上品で優しい味わいのケーキでした。
最後にお茶と合わせたのが和のスイーツ。杏子の味が爽やかで、心地よく〆ることができました。最後まで日本を感じる料理でした。
皿数の多いメニューが、全体の進行が軽すぎず、重すぎず、コースの全体構成が良くできています。
ワインはペアリングでお願いしました。白がボルドーのソヴィニオン・ブラン、ルーションのシャルドネ。赤はブルゴーニュのピノ・ノワールとボルドーのカベルネ・ソーヴィニオンです。コースの流れに沿っていると思います。ただ、筍は木の香りがあるため、もう少し木樽香のあるもの方が良いと思います。(このシャルドネも新樽は使っているようですが。)全体にペアリングのワインを料理にふさわしいレべルに高めた方が良いかと思われます。
旬の食材のもつ特性を生かしながら、様々な調理技法や手を加えたガルニチュールを組み合わせるなど、皿自体の完成度を高めていく手法は、日本料理に共通する手法です。繊細で優しいなかに、深い味わいを感じます。特に、ブイヨンによる旨味の使い方に日本料理の出汁に共通する感性を感じました。
様々な調理過程を経た手の込んだ料理の数々、それそれの料理の創作の経緯やシェフの思いがテーブルの上の冊子に記載されています。個別の料理の設計が緻密で、一皿一皿がかなり詳細に造り込まれ、複雑性があります。したがって、アドリブやサプライズはありませんが、妥協を許さないシェフの真摯な姿勢がうかがわれる料理の数々でした。