円山原生林の自然に抱かれた札幌市宮の森にあるフランス料理店「ル・ミュゼ」。北海道の自然を料理で語るにふさわしい場所です。建物もスタイリッシュな一軒家のレストランです。エントランスからホールへの廊下が期待感を高めてくれます。
ホールは広々ゆったりしていて、隣のテーブルとの間もゆとりがあります。白を基調としたおしゃれな空間です。
ワインリストはリーズナブルな道産ワインと高価なフランスワインに分かれます。オーダーしたペアリングは道産ワインのみの4種。北海道ワイン鶴沼ヴァイスブルグンダー、宝水ワイン・シャルドネ、はこだてわいん・ガルトネル・ピノ・ノワール。奥尻ワイン・ツヴァイゲルト。
アンダープレートは円山原生林をイメージした水墨画のような和の陶器です。
上に置いてある熊笹がアミューズ。サプライズなのでそれ以上は書けませんがチュイルです。
右の抹茶は甘く感じられましたが、抹茶とアスパラのスープとのことです。
香ばしい香りのクリスピーな食感のアミューズらしい品。シャンパーニュに合うだけでなく楽しませてくれます。北の大地の自然が予感され、料理の期待も高まります。
白樺の上のフキノトウのフリットにフキノトウのタルタル。左の本物のフキノトウは飾りです。香りが豊かで苦味もあります。
一見、昼にすし善で食べた卵焼きのような一品。トリュフが細かく練りこまれたスフレ。あまり香りは感じられなかったですが、食感はふんわりのスフレです。
食べ終わってそのままにしていると、ここでもサプライズが・・・。スタッフがそっと種明かしを。実は箸置きは食べられるとのこと。シイタケのパウダーのサブレでした。
蝦夷バフンウニのコンソメジュレ。東京では五十嵐シェフのマノワーダスティンとそのお弟子さん店でおなじみの料理に近い。新玉ねぎの甘さが香るクリーミーなピュレが北海道らしくちょっと新鮮です。
グリーンマッシュルーム。普通のマッシュルームとディルで緑のマッシュルームに成形した手の込んだ一品。茸の味わいにハーブが溶け込んでいます。チーズのテュイールがのっています。
ここで熱々の焼きたてのパンが出されます。焼きケーキのようです。
昆布〆のように桜の葉で〆た鯛。桜葉は香りが強いので微妙ですが、一緒に食べても良いでしょう。鯛の食感もしこしこで、旨味があって春を感じます。これにはピノ・ノワールが良いでしょう。函館ワインのほとんどロゼのようなピノもなかなか良いです。サイフォンでお茶も準備されます。
魚料理のメインはこの時期の北海道フレンチおなじみの桜鱒ですが、なぜか、桜色ではなく黒いパン粉でおおわれています。
割ってみると中はきれいな桜色のミキュイ。空豆とか付け合わせがかなり面白い。芽キャベツ、フキノトウの苦み走ったタルタルソースにウドと杏のソースと2種類。チョコレートケーキとフルーツのデザートのイメージでしょうか。
一緒にサイフォンで出されたのはお茶ではなくスープ。鮭節の出汁、かなり濃厚で凝縮感のある味わいです。和風の澄まし汁的旨みがあります。北海道風というべきでしょうか。
メインは鴨のロティ。レアですが、適切な火入れで肉の食感がサクサクと良い。グレープフルーツのソースは皮部分のホロ苦さが鴨によく合います。フキノトウ、フレッシュチーズの3種類のソース。グリーアスパラにポテトと北海道を感じます。シェフが裏の山で採ったエゾエンゴサクは実はエディブルフラワー、食べられます(野性植物好きには涙)。
本当のデザートはソフトできめ細かいアイスクリーム。北海道の雪原から芽吹いた緑をイメージしているかのようです。
最後に、ホワイトチョコレートに熱い桜を封じ込めた品。雪の卵の中から春が生まれるイメージの小菓子です。
品数は多いのですが、2時間で完結させるのは北海道スタイルなのでしょうか。モリ・エールでもこんな感じでした。テンポの速さには多少違和感を感じます。
サプライズや、和を意識した皿のイメージ表現、など「食とアートの共存」、北海道の素材により北海道の自然をさらに表現するというテーマが、すべての料理に貫かれています。
見た目ほどは複雑な調理は行われておらず、基本的には食材の特性を生かした料理です。料理自体は皿全体の表現としてはアートを感じますが、料理自体の組み立てや個々の皿の料理構成は比較的シンプルです。
ペアリングのワインは、最近、レベルが上がっている北海道産のワインも良いのですが、料理やレストランのグレードにふさわしい、ワインのセレクションがあって良いかと思います。一方、ボトルのワインは高価なブルゴーニュやボルドーにこだわることなく、幅広くそろえてもよいでしょう。