恵比寿駅東口から徒歩5分程度のマンションの地下にある中華料理レストラン。中華料理ミシュラン一つ星は日本では貴重である。このと通りは狭いが、自動車がほとんど通らないためか、レベルの高そうな飲食店が並んでいる。
ミシュランの星付きでは珍しい地下の店だが、外階段なので入りやすい。
11時45分の予約だが、すでに席はかなり埋まっている。
ランチの小さいコースをあらかじめ予約しておいた。ランチタイムはコースのみ予約可能で、満席のことが多いため、コースの場合は予約必至である。
調理人がシェフほか2名の3名体制。サービスも3名の計6人。さほど大きくない店だがスタッフは多い、オープンキッチンのカウンターとテーブル席の構成で、テーブルの間隔は狭く、ビニールクロスでカジュアルな雰囲気である。キッチンから料理の香りが感じられる。
ワインは、日本の中華料理レストランとしてはかなり種類が多い方で、飲み物リストは印刷されているので、変動は少ないのだろう。シャンパーニュの種類が多く、白はブルゴーニュが中心、赤はブルゴーニュのほか、カリフォルニアのピノ・ノワールやカベルネ、オーストラリアのシラーもあり、中華料理に対するワインのマリアージュとして、一つのコンセプトを感じる。ただ、この日いただいたヴィレ・クレッセは2009だがかなり繊細で酸味も強かった。シャブリやピュリニ・モンラシェなど全般にエレガントなシャルドネが多いが、必ずしもこちらの料理に合わない場合もあるかもしれない。
前菜は4品を別々の器に盛ったプレート。
こんにゃくの煮込み。食材、調理法ともに、日本料理のような一品で、中華料理では珍しい。醤油の味はしっかりしていて、刻みトウガラシの辛味と出汁が感じられる。
長芋とザーサイ、干し海老の炒め物。干し海老使っているところにセンスを感じる。味と旨味を出しているが、ザーサイの隠し味的な旨味と共に、複雑な味わいが感じられる。
チャーシューが蜂蜜や五香など、深い香りと旨味のある味わい。豚バラ肉がほどよい柔らかさで繊維の食感も軽やかで、香港以外でこれだけのレベルのチャーシューはなかなか味わえないだろう。
ホワイトアスパラの豆腐、上湯のジュレがけ。これはかなり素晴らしい料理。ホワイトアスパラの香りがするねっとり、まろやかな豆腐を、旨味の凝縮された上湯のジュレと共に味わうことができる。フランス料理のホワイトアスパラのムースに似た食感と味わいである。ロワールのソーヴィニオン・ブランなどを合わせたいところである。
海鮮春巻き。帆立、海老、カニ、イカの入った細長い春巻き、皮が薄めなのがいい。食感がほどよいパリパリ感で、細かくカットされたシーフードのソフトでっとりした食感とうまく調和している。海老のぷりぷりした食感も感じられる。山椒塩と黒酢が付いているが、味がしっかりとしているのでそのまま素材を味わうのがいい。黒酢も香りがあって味が引き締まる。
小籠包は皮が薄いがしっかりとしていて破れないので、旨味がたっぷりの肉汁が味わえる。これは普通に美味しい。通常通り千切りショウガが付いている。
レタスの湯引き。表面に油が感じられるが、しんなりせずに、オイスターソースとともに、新鮮な食感と味わいが楽しめる。一見シンプルだがかなり調理のレベルが高くないとできない料理だろう。
メインは豚肉団子の上湯煮込み。フカヒレの姿煮と同じとろみのある上湯で豚の肉団子を煮込んでいるのだが、上湯は濃厚で凝縮感があり、とろっとしているが透明感のあるピュアな味わいだ。金華ハムなど高級食材を使っているのだろう。フカヒレの姿煮もぜひ味わってみたい。
肉団子は挽肉ではなく細かく刻んだ豚肉を固めて油でさっと揚げて、スープで煮込んでいる。豚肉の繊維の食感と旨味が感じられ、スープと絡んで肉汁が溶け込むので、うまみが倍増して感じられる。
汁なし坦々麺は良くあるものとは全く異なる。トウガラシ、パクチー、胡麻や松の実と少量の挽肉もあるが、通常の坦々のようなはっきりした甘辛さがなく、味は薄く繊細微妙で、細い麺と薬味の香りや食感を味わう料理になっている。コースの最後の食事を意識した麺料理だ。
デザートは定番メニューの杏仁豆腐。これはクリーミーでソフトだが、ピュアでとろけるような食感と軽い味わいであるが、最近流行の生クリームは少なく、これも全体のバランスを意識したものなのだろう。
全体に油が少なく、素材を生かした味わい。量も少なく、懐石料理のようなシンプルさの中に深い味わいと、料理人の創造性やセンスが感じられる中華料理である。東京で食べられる中華料理としてはトップレベルの中華料理であり、日本人でしか作ることのできない中華料理だろう。