1.現状分析と課題
西武沼津店が平成25年1月に撤退し、静岡県東部地域は百貨店が1店舗もない空白エリアになりました。静岡県東部地域は124万人という人口規模、その中核に位置する沼津市と三島市を中心としたエリアの43万人という人口規模などから、少なくとも一定規模以上の百貨店が1店舗は存続可能であり、西武撤退の理由はグループ企業内における経営資源の選択と集中にあると推測されます。(大規模店の競合という説明には、企業の説明責任という観点から、企業倫理上違和感を覚えます。)
沼津市中心部における相次ぐ大規模店の撤退理由は、商業施設の老朽化とフロア面積の狭小性という建物の問題が大きく、最近のショッピングモールに代表される快適性、時間消費、消費の多様化などの消費者ニーズに対応した、大規模商業施設が立地可能な再開発ビルが建設されれば、百貨店やファッションビルなどの大型店の新規立地は可能であると考えます。今年、オープンした藤沢市の辻堂駅に近接したテラスモール湘南に見られるように、藤沢市という大型商業施設がほとんど飽和状態の都市においても、床面積が広く、消費者ニーズに沿った施設レベルの高い大規模商業施設は多くの来訪者を集めています。アクセス面からの鉄道駅などの公共交通機関の近接性や使い勝手の良い大規模駐車場の整備も集客力を高める大きな要因と思われます。
いずれにしても、静岡県東部地域、特に沼津市における相次ぐ大規模店の撤退と、質の高いファッションビル、大規模ショッピングセンターの不存在は、地域の消費水準の質的低下を招き、地域全体の文化的創造性を低下させるとともに、地域産業の創造的な事業活動の停滞を招くことが懸念され、地域の大きな問題ではないかと指摘してきました。
このための対応策としては、公共交通機関によるアクセスや大規模駐車場の整備された、質の高い大規模商業施設の整備が不可欠です。西武沼津店が撤退したビルにおける百貨店などの商業施設の存続について検討することも急がれますが、現在の西武百貨店の本館及び新館の建物のフロア面積やペンシルビルのような縦長の構造では、現在の売り上げが大幅に拡大することは望めないと思われます。報道によると、沼津市は東椎路地区の沼津市立病院隣接地への大規模商業施設の誘致を検討しているようですが、都市インフラの整備されていない市街化調整区域への大規模商業施設の立地は、法律上制限されているだけでなく、自動車交通量の増大による交通渋滞、大気汚染、高齢者等の交通弱者のアクセス、既存の中心市街地の空洞化などの問題があります。
2.今後の都市機能整備のための沼津駅周辺開発戦略
以上のことを前提とすると、西武沼津店撤退後の沼津駅周辺の中心市街地において、商業機能を中心とした高度な都市機能を維持発展させていくためには、私案として段階的に次のような開発戦略を進めることが極めて有効であると考えます。
第1期
○ 再開発第1期として、沼津駅ビル、駅構内(ホーム及び線路の上)及び周辺のエリアに大規模な再開発ビル1を建設し、百貨店等の大規模商業施設を立地させるとともに、現在、西武沼津店、富士急百貨店、駅ビルアントレのもつ商業機能をこのビルの商業施設に集約させることにより、沼津駅周辺地域における商業機能の高度化を図るとともに、南北自由通路の整備により駅の南部と北部の商店街を結ぶことにより、来街者の回遊性を向上させ、沼津市中心市街地全体における商業機能の質的向上を図ります。
○ 再開発ビル1は、鉄道高架事業における新駅のホーム及び軌道等の鉄道施設を整備することが可能な構造とし、ビル内に南口と北口を結ぶ南北自由通路、鉄道高架事業完了までの暫定利用としての駅施設、南北双方からアクセス可能な駐車場等を整備します。これらにより、沼津駅周辺地域における高度な商業機能の維持向上が図られるだけでなく、高架事業で予定されていた新駅建設が先行されることになり、沼津駅付近鉄道高架事業が一歩前進するとともに、分断された中心市街地の南北間のアクセスが、駅付近においては高架事業完成を待たずに可能となります。(高架事業の鉄道敷設可能な構造の再開発ビルを先行して建設した事例としては高松市における琴電瓦町ビルの事例があります。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%93%A6%E7%94%BA%E9%A7%85)
○ 事業手法として、周辺地区との一体的な開発手法を検討のうえ、可能であれば財源的に有利な第1種市街地再開発事業及び連続立体交差事業等を活用することとし、西武百貨店本館、富士急百貨店、沼津駅ビル及びその他周辺ビルとの一体的な再開発を行います。(駅の鉄道軌道上における駅ビルとしては、前述の高松市の琴電瓦町ビル、小田急町田駅(小田急百貨店)、JR大宮駅(ルミネ)、JR千葉駅で予定されている駅ビル開発などがあります。)
○ 西武本館及び富士急百貨店は、再開発ビル1の工事期間中は、仮店舗及び西武百貨店の後継店舗等が入居しますが、再開発ビル1建設後に除却し、駅前広場拡張用地とします。現在、狭小のため分散しているバス乗り場の集約化、ユニバーサルデザインの導入などにより駅前広場の高度化が実現します。
第2期
○ 再開発ビル1建設による拠点性の向上を踏まえ、現在の駅広場東側エリアに市街地再開発事業により再開発ビル2及び3を建設し、商業機能のほか、静岡県東部地域に不足する高等教育機関、専門学校等の教育機能、ホール、美術館・博物館等の文化機能、市役所、国・県の合同庁舎、オフィス、住宅等を整備し、都市としての拠点機能の高度化とコンパクトシティの実現を図ります。
○ 駅前広場には津波避難場所を想定した人工地盤を整備し、ペデストリアンデッキによりプラザ・ヴェルデ、BiVi沼津、イーラdeと沼津駅を結ぶことにより、これらの施設の一体的な利用の促進を図ります。人工地盤にはイベント広場等を設置し、各種イベントを開催することにより賑わいを創出します。人工地盤下の1階部分にはバスターミナルを整備し、現在分散しているバス乗降場の一体化と駅アクセスの向上を図ります。
○ 駅前広場地下に公共駐車場を整備し、沼津駅周辺の拠点性の向上に対応した自動車アクセスの向上を実現します。
3.実現に向けて
以上述べてきた沼津市の中枢都市機能の整備のための開発戦略は、決して単なる夢を描いたものではなく、過去の事例などに基づいた現実的な戦略です。特に、再開発ビル1については、全国で進められている市街地再開発事業に比較して、圧倒的に地権者の数が少なく、権利調整が容易であることが想定され、関係者間の合意が実現すれば、短期間のうちに実現に向かうものと予想されます。もちろん、都市計画の変更などの複雑な手続きが必要ですが、一見難しいと思われる建設技術的な問題などは、現実には少ないものと思われます。
今まで、このような事業が実現してこなかったことが、不思議に思われるでしょうが、沼津駅前に半世紀にわたって西武百貨店が営業してきたという現実が大きな要因かと思われます。西武沼津店撤退は、そのこと自体は地元にとって寂しい現実ではありますが、沼津市が新たに飛躍するための一つの機会として前向きにとらえて、関係者が力を合わせて次の時代に向かっての新しいプロジェクトに前向きに取り組まれることを心から期待したいと思います。