5月3日と4日の2日間、佐賀県有田町で世界料理学会 in ARITAが開催されました。
この行事は1年半に1回、北海道函館市で世界の料理人が集まって開催している世界料理学会を、有田焼創業400周年を記念して有田で開催するものです。世界料理学会は料理人自らが開催し、料理に関する報告を行って、情報交換や交流を行う学会で、料理人のほか一般の人も参加できます。
今回の世界料理学会のテーマは「器と料理のマリアージュ」です。「器の使い手である料理人と器の作り手である有田焼の職人が交流を深め、お互いのクリエイティビティを高めあうことにより、有田が、料理人にとって、使いたい(作りたい)器が手に入る街として評価され、国内外から料理人が集う場所となること(また、それに伴い、食や観光が発展していくこと)目指して」いるとのことです。
会場は有田駅から車で10分程度の郊外にある「炎の博記念堂」です。1996年(平成8年世界・炎の博覧会が開催された会場です。個人的には20年前に訪れた懐かしい場所です。
今回は1日目に参加しました。
朝から雨と風が強く、厳しい天候です。有田駅から少し離れたところがシャトルバスの発着所になっていて、雨と風が強い中、シャトルバスが遅れたため、大変な状態で会場に入りました。佐賀県庁がサポートしているようで、シャトルバスなども県庁の手配のようです。有田町の役場は一年の最大のイベント、有田陶器市に対応するため手一杯なのでしょう。
世界料理学会は料理人によって運営される学会です。今回は、銀座の日本料理「六雁」の総料理長秋山能久氏が総合ディレクターを務められました。六雁は日本各地の伝統工芸とのコラボレーションにより新年のお重を製作されており、なかでも有田焼による球体のお重は最高傑作と評されているそうです。
オープニングの映像です。
続いて、秋山さんが挨拶されました。そのあと、オープニングトークとして、世界料理学会の創始者であり、今回の世界料理学会の名誉顧問である函館のレストラン・バスクのオーナーシェフ深谷宏治さんの挨拶、そして集まった料理人が壇上に上がり、毎回恒例の『エイエイオー』のかけ声で学会はスタートしました。
料理人発表の一番手は銀座のフレンチ・レストラン「マサ・ウエキ」Restaurant MASA UEKIの植木將仁氏です。「歴史・文化・季節が語りかける料理と皿のイマジネーション ―次世代に伝えたい料理の可能性―」というタイトルの報告は基調講演に当たるもので、この学会の基調となる要素を網羅したものでした。
自らの故郷金沢、上越と店のある銀座、そして有田を結びつける報告です。
植木氏は日本食材、特に自らが育った上越や金沢へのこだわりを持っています。上越短角牛、能登の棚田など里山で育まれた食材などもその一つです。
植木氏の料理のベースとなるが金沢の料理。
加賀百万石の食の源は
① 日本海の新鮮な海の幸
② 霊峰白山の源とする水の旨さ
③ 山々でとれる山の幸
④ 加賀平野で生み出される野の幸
植木氏は自分の料理の定義として3つ挙げています。
定義1 金沢や上越の郷土料理をひもといて自分の料理にアレンジし新しく現代料理に仕立てていく
定義2 素材が育まれる背景や環境の中から素材同士のマリアージュを考えデジタルとアナログを融合させて料理を創造していく
定義3 味覚を構成する基本味「塩味」「甘味」「酸味」「苦味」とそして「旨味」を考えながら料理をイメージ、形にしていく
定義1の例としてあげられたのが、故郷金沢の代表的加賀料理、鴨の治部煮をフランス料理的にアレンジした料理です。治部煮が江戸時代の大名高山右近が加賀藩に伝えた欧風料理で、野生の鴨を使うことからフランス料理のジビエがなまったという説があるのには驚きました。江戸時代、日本海を中心とした北前船貿易が盛んに行われ、その中心が加賀藩、金沢であり、全国から物品が入り、その地の利を生かして加賀料理が育まれたとのことです。
定義2の組み合わせの妙として、鴨は新潟の酒「雪中梅」とともに、スペイン発の減圧加熱調理器「ガストロバック」で減圧加熱して、フランス料理の鴨に仕上がっていました。鴨の火入れは難しいのでこのような技術的な手法が必要なのでしょう。デジタルとアナログの融合です。そのほか、50℃洗い、低温スチーム調理などのデジタルな料理技術が報告されました。
世界料理学会らしい料理技術の報告です。
定義2の素材のマリアージュとして
「あたかも偶然の一致や発見のようだが実は意味のある必然の一致といえる「シンクロニシティ」を重要なキーセンテンスに掲げあらたな組み合わせを生み一致させていく。」というシンクロニシティの考え方を提唱され、新潟で出会った日本酒「雪中梅」と上越短角牛のマリアージュ「上越短角牛の藁焼きと雪中梅大吟醸ソース」を報告されました。こちらは里山からの贈り物です。
料理と器とのマリアージュの一例、フォワグラのキャラメリゼ、ショコラシャンティです。
1.異なる地域資源と地域資源のマリアージュ、組み合わせの妙
2.伝統工芸や伝統料理などの歴史や伝統の地域資源に現代的な感覚、デザイン、感性を加えて、アレンジし、洗練され広く受けいれられるものにする。
3.アナログ的な地域資源をデジタルな科学技術、ITなどを融合させて、新しいものを創造する。
地方創生における地域資源のイノベーションに共通する基本理念を料理の世界で報告されていました。非常にわかりやすく共感できる内容の報告でした。
このあたりでランチタイムも近いので、料理学会から席をはずして、隣の会場で開かれている、ARITA-バルに行ってみました。
このイベントだけに参加した地元の方々が多いためか、大変な混雑で、人気のブースでは長い行列ができ、早々に売り切れが続出していました。ワインやビール、ソフトドリンクは別会計で売っていました。
当学会の総合ディレクター秋山シェフのスペシャリティです。美しい外観と和食らしい繊細な味わいです。
植木 将仁 Restaurant MASA UEKI
荒井 昇 HOMMAGE/浅草・東京 パテ・ド・カンパーニュ
生井 祐介 CHIC peut-être/八丁堀・東京 エビトースト
これは美味しかったです。生井シェフの料理、久しぶりに味わいました。
佐藤 伸一 Passage53/パリ・フランス 佐賀県産食材を使った牛丼
佐藤シェフはパリで初の牛丼専門店「Oïshinoya」をプロデュースされています。
笠原 将弘 賛否両論/恵比寿/東京
笠原シェフは家庭的な料理。1チケットで2皿来ました。
午後から再び世界料理学会の料理人の報告へ復帰しました。
神田神保町「傳」の長谷川在佑シェフによる「創り手の想いをお客様に料理で伝える、繋がりを作る」という発表です。
フロリレージュの川尻寛康シェフは、One man`s trash,another man`strasure
毎年世界で作られる料理の3分の1,13億トンが廃棄されるという現状から、2,100年にはレストランはなくなる。
という警告のもとに、捨てられる食料ロスの1/4でも有効利用できたら、世界中で飢餓で苦しむ人たち(約8億人)のおなかを満たすことができる。サステイナブルな社会の実現、環境保全の観点から食糧ロスをなくすため、捨てられる野菜くずで作るスープを報告。コラボした有田焼では、従来廃棄されていた陶土を使った作品を窯元の作家が創る過程が報告されました。かなり料理学会としては異色ながらも、シリアスな報告です。
トークセッション
フランスで活躍している(活躍していた)3人の日本人シェフのトークセッションです。
須賀洋介氏(SUGALABO)、佐藤伸一氏/パリ「パッサージュ53」、吉武広樹氏/パリ「Sola」、の3人に北村啓太氏/Au Bon Accuelが加わりました。
吉武氏以外は有田焼は使っていないこともあって、前半は話が流れなかったですが、後半はパリのレストランの話題が中心となり、フランスが好きでないとパリでレストランは経営できないという話題で盛り上がりました。
クリエイターバトルVol.1は料理人からの挑戦状として、料理人さんから窯元さんへ「この料理に合うお皿を」ということで、窯元さんが難しい注文にこたえてお皿を作りました。
現物のお皿は会場に展示されていました。植木シェフからは吉右エ門窯原田吉泰氏に北陸の棚田の皿を。九州の棚田との違いがあり、苦労されたようです。
龍吟の山本シェフからは安楽窯末村氏に蟹の皿を。見事に表現されています。
川手シェフから寺内信二氏への依頼。MUGAITZのAndoni Luis Adurizから同じく寺内信二氏への依頼。
第1日目最後の報告は龍吟の山本征治氏です。内容は前回の函館と同じで、有田焼の器とは関係ない報告、フグをテーマにして映像でした。実質龍吟のCMですが、毎回楽しみにしている人がいる中で、前回の函館と同じ映像だったのは残念。次回、今年秋の世界料理学会では蟹の映像を見ることができそうです。
シェフとともに報告を行った有田焼の職人のプロフィールがパンフレットにもなく、セッション以外の単独の報告もなく、全体に存在感が希薄だったのは、料理人中心の世界料理学会とはいえちょっと残念でした。
世界料理学会第一日目の夜は、有田の隣、宿泊先の伊万里市で開催された伊万里バルへ。震災復興チャリティイベントTSUNAGARIです。料理学会参加のシェフたちが、伊万里の市街地にある飲食店で料理を提供しています。
こちらもどこから情報を得たのか、地元住民と料理学会参加者でいっぱい、すごい人気です。 まずホテルの近くのBouillonへ行ったのですが、伊万里牛の料理があるためか、長蛇の列。あきらめて、ちょっと歩いてTOMATO HEADへ。なんとパリの一つ星レストランsolaの吉武広樹シェフが料理を作っています。しかも吉武シェフはご当地伊万里市出身で、今回のTSUNAGARIの仕掛人です。
吉武ワールドは伊万里で全開。一人2品限定で、2人で4皿を分け合っていただきました。
どれも素晴らしい料理です。カジュアルながらワインもありました。フォワグラ丼は特に秀逸。ふんわりソフトなフォワグラにとろりと卵がかかって醤油ベースのたれが絶妙な味加減。カルパッチョも豚バラも、白アスパラも本格的フレンチの前菜でワインによく合いました。ARITA-バルと同じ紙の器ですが、ゆっくり座ってワインとともに食べられました。
次に向かったのはbar style & café Felizという店。あの学会のセッションに登場したパリの二つ星Passage53の佐藤伸一シェフとAu Bon Accueilの北村啓太シェフが担当。店は開いていたのですが料理はSold Outでした。やはり人気だから最初に行くべきだったか。ただ、佐藤シェフのスペシャリティのイカとカリフラワーは函館の料理学会で食べたことがあるので諦め、kate cuoreへ。
Au gout du jour merveille の小岸明寛シェフ、料和大道の大道慎吾シェフ、料理屋植村の植村良輔シェフが担当しています。
鰹の塩たたきが売り切れということで、まずは佐賀の野草ソーセージ ワサビマスタードドレッシングアゲマキ添え。
吉武シェフの料理が素晴らしかったせいか、やや普通に感じました。量はかなりあり、特に海老パンはボリュームあって、これでバルは終了、ホテルに戻りました。