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6月13日と15日にヴァンソン藤井由実さんのストラスブールのまちづくりに関する講演を聞きました。フランスではストラスブールがLRT導入の検討を始めた1981年にわずか3都市が路面電車を走らせていたのが、現在では26の都市でLRTが運行され、2013年中には3つの都市でLRTが開通、さらに13の都市でLRTの新規導入が計画されているそうです。

ストラスブールでは、LRTの導入により車の通らない快適な歩行者専用道路が多い中心市街地が、にぎわいを取り戻し、観光客が増加し、都市のブランドイメージの向上につながっています。フランスでは公共交通機関の整備は、所得再分配政策として位置づけられ、交通税をはじめとする税金が積極的に投入されています。ストラスブールのトラムは第三セクターが運営にあたっていますが、切符からの収入は総収入の23%に過ぎず、残りは交通税と都市共同体の一般財源が投入され、政策的に料金が引き下げられています。その結果、交通弱者への移動手段の提供や温室効果ガスの削減による環境負荷の軽減、都市景観の向上、中心市街地の活性化などの多数の政策目的が同時に実現しています。

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ストラスブールなどの先進自治体の導入の成功を見て、多くの都市が市長のリーダーシップのもとに、LRTの導入を実現してきました。都市の文化的価値の向上、環境対策、中心市街地の賑わい創出といった、かならずしも数値でとらえることができない価値の創造に対して、国民のコンセンサスがあるフランスだからできたということなのでしょうか。

フランスではLRTはなぜかワインの生産地の都市に導入されている例が多いようです。しかも最近導入されている都市が多く、ヨーロッパ全体でもそのような傾向が見られます。

シャンパンの産地として有名なランスでは、2012年にLRTが導入され、さらに延長工事が行われています。ランスでは市の中心部のプラス・ドゥル・エ・デルロンという広場を中心に多くのレストランが集まっていますが、この地方では金曜日に食事をする習慣があるようで(花金?)、周辺は大混雑になります。ワインやシャンパンを飲むのでしょうが、なぜか駐車場も一杯で、確かにこのまちにはトラム整備の必要性が強く感じられます。

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ブルゴーニュの中心都市、ディジョンではLRTが今年開業しました。人口は15万人程度の都市です。これは、一昨年訪れた時の工事中の写真です。

DSC04816 ボルドーでは3路線が営業中です。SNCF(民営化されたフランス国鉄)のボルドー・サン・ジャン駅とレストランやワインバーがある旧市街が離れているため、専用軌道を快適に走るトラムはとても便利です。 架線がなく、線路中央の第三軌条から集電しているため、すっきりとした外観です。

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ボジョレーやローヌのワイン産地に近い、食の都リヨンでも公共交通機関として地下鉄やトロリーバスのほか最近LRTが導入されています。リヨンはケーブルカーや、TGVとLRTが乗り入れている国際空港もあり、公共交通の総合展示場のようです。

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ほかにも、ロワールでは河口のミュスカデの産地に近いナントはフランスのLRT導入第一号。ロワールではナントの東のアンジェとパリに近いオルレアン、アルザス南部のミュールーズ、地中海に面したプロヴァンスの保養地ニースや港町マルセイユ、ラングドック・ルシオンのモンペリエ、南西地方のフロントンやガイヤックといったワイン産地に近いトゥールーズなど、LRTが導入されているほとんどの都市はワインの産地に近い都市です。また、ナントをはじめとして文化創造都市が多いのも特徴です。

メトロのまちパリでも、ついに郊外にトラムが導入されました。

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ドイツではバーデン地方のカールスルーエはLRTでは有名な町です。かなり過密なダイヤです。中心市街地には周辺各地からLRTに乗って集まってきた人でいっぱいです。一部のLRTがDB(ドイツ鉄道・旧ドイツ国鉄)に直接乗り入れています。バーデンのワイン産地も近く、アルザスの対岸になります。同じくアルザス南部の対岸のバーデン地方のフライブルグもトラムで有名な町です。

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南ドイツの古都で大学都市のハイデルベルグにもトラムがあります。バスとの乗り継ぎが便利にできています。この町にはワインの大樽で有名なハイデルベルグ城もあります。

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スペインのバスクの中心都市で、文化都市であるビルバオでは、地下鉄に加えて新たにLRTが導入されました。旧市街と新市街のゲッゲンハイム美術館、サッカースタジアムを結ぶ便利な路線です。

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イタリアでも主要都市ではローマ、ミラノ、トリノ、ナポリなどの主要都市に加えて、フィレンツェとヴェネツィアでも新たにトラムが導入され、シチリア島のパレルモなど中小の都市でもトラムが導入されています。

このように、ワインの産地の周辺や文化・創造活動が盛んな都市にLRTが導入される傾向にあります。

ワイン産地に関して言えば、ワインは土地の郷土料理と一緒に飲むものとして生産されてきた歴史があります。ワイン産地では街の中心部のレストランで郷土料理と土地のワインを楽しんできた市民の生活の歴史があります。当選に中心部にはワインを飲みながらゆっくりと食事ができるレストランやワインバーが多く存在します。このため、自動車を運転するのではなく、公共交通機関による移動の必要性が大きいのではないかと思われます。 

その他の要因としては、これらの都市では住民の景観や環境、文化に対する意識が高く、自動車社会から人間中心の社会に都市を改革してくことに住民の合意を得やすかったことが考えられます。ワインを良く飲む人々は様々な知的な探求活動に熱心な人が多いようです。LRTの整備に背景には文化や景観、食など都市の品格に敏感な住民の存在があるのでしょう。

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