トリノから地中海のチンクエ・テッレへ
旅行4日目はいよいよピエモンテを離れ地中海に面したルグーリア州に向かう。トリノ・ポルタ・ヌオヴァTORINO PORTA NUOVA駅を8時20分に出発。
【朝のトリノ・ポルタ・ヌオヴァ駅周辺】
ジェノヴァ経由で、まず目指したのはチンクエ・テッレCinque Terreの入り口の町、レヴァントLevantoである。まず、アスティを経由してジェノヴァに向かう列車に乗る。
アスティ付近のブドウ栽培地帯はこの日も深い霧が立ち込めている。ワイン用のブドウは寒暖の差が大きい地方に向いているので、朝の冷たい空気により霧が出やすいのだろう。ブドウ産地をリグーリア州との境の山を抜けると急に明るくなり霧は消えていった。
ジェノヴァは大きい街で駅の数が多い。トンネルを抜けて突然ジェノヴァGENOVA Piazza Pricipe駅に到着したのが10時30分、20番ホーム。ホームの数も多い。乗り換える列車は、ジェノヴァPiazza Pricipe発11:04のTreno Regionale 11203のS.STEFANO DI MAGRA (13.20着)行きで1 SOTT.ホームから出るというのだが、SOTTというのは地下ホームのことで、エレベータで地下に降りた後、トンネルのような通路を歩いていかなければならない。
この列車は大変な混雑で、最初座ることもできなかった。チンクエ・テッレをはじめとする東リビエラの観光地は大変な人気で、オフシーズンだと思われたが、ヨーロッパ各地やアメリカからの多くの観光客が来ている。明るい地中海の海とパステルカラーの街並みが車窓に広がる。1日前には雪の降るアルプスの3000mクラスの山にいたのが信じられない。
海岸に面した大きな駅では、多くの人が乗降する。ほとんどが欧米人で、日本人や東洋人は見かけない。それには理由がある。
一つは日本語で書かれたイタリア関係のガイドブックにこのエリアの情報がほとんどないことによる。英語のRick StevesのガイドブックITALYhttps://www.ricksteves.com/europe/italy` にはチンクエ・テッレだけで85ページ、その周辺まで入れいると120ページの記載があり、ヴェネチアの98ページ、フィレンツェの90ページよりも多い。この本が出るまでは、さほど評価されていなかった観光地なのだろう。アメリカで出版されているため、アメリカ人観光客は多い。
ちなみに地球の歩き方イタリアのチンクエ・テッレの記載はわずか2ページである。
もう一つの理由は5つの町の間を鉄道と船により移動するため、日本人の団体旅行には向いていないうえに、これらの利用はかなりの困難が伴う。これはあとで詳しく触れたい。
チンクエ・テッレのガイドブックは日本語のものはないため、Rick Steves`著のITALYが最も詳しいので必須であり、Amazonでも手に入るが、この本はかなり分厚い。Kindleでダウンロード可能なので、こちらがおすすめである。詳しい地図も掲載されている。
こういう事情もあるので、ここではチンクエ・テッレの観光について詳しく書くことにする。
この日の宿泊地、レヴァントLevantoには12時36分に着く。チンクエ・テッレCinque Terreは東からRiomaggiore、Manarola 、Corniglia、Vernazza、Monterosso al Mare、の村があり、その東にLa Spezia、西にLevantoという二つの町が挟んでいる。5つの村で最も大きいのはMonterosso、次がRiomaggioreでこれらには快速列車が停車する。Cornigliaは山の上に集落があるため駅からはミニバスが出ている。
チンクエ・テッレの町を結ぶ各駅停車のローカル列車は1時間に1本程度の運転である。また、船の便もRiomaggioreの東側のPortovenereからMonterossoの間を往復しており、山の上にあるCorniglia以外の4つの村の港に立ち寄る。一部はLevantoまで往復する。
http://www.apathtolunch.com/2014/06/complete-cinque-terre-portovenere-la.html
こうした基本情報がチンクエ・テッレ観光には不可欠である。
さて、レヴァントのホテルはPark Hotel Argento (パーク ホテル アルジェント)というトリップ・アドヴァイザーで評判のいいホテルを予約していた。地図上で見る限りは駅から10分程度の歩いて行ける距離である。駅の裏側の出口からスマホのグーグルマップを頼りに丘の上のホテルまで歩いて行ったのだが、途中から未舗装の田舎道の急斜面で、日差しが強く暑さが増すなかを汗だくなってようやく着いた。駅から迂回するような形で舗装道路があるようだ。ホテルでは電話連絡してくれれば迎えの車を出したのにと言っていたが、そのような注意点はWEB上はどこにも書いていなかった。タクシー乗ればよかったことだが。
ただ、ホテルのスタッフはとても親切で、部屋はアップグレードしてくれて、豪華なスイートルームに。たぶんこのホテル最高の部屋だろう。両面バルコニーのリヴィングルーム付き。海は見えなかったが、眺めも雰囲気も最高だ。
出かけようとすると、チンクエ・テッレの地図や時刻表を渡してくれて、詳細に説明してくれた。レヴァントの港からのチンクエ・テッレに向かう船に合わせて、送迎車を出すということだが、鉄道でリオマジョーレへ行きたいというと、それもいいだろうということだった。後で、船で行くべきだったと後悔したのだが・・・。
【レヴァント駅】
レヴァントから大混雑の二階建て列車で何とかリオマジョーレに着いた。
【途中駅のヴェルナッツァ】
駅からチンクエ・テッレカードを買おうとするが窓口は大混雑である。
まずは街を歩くこととする。斜面を登って町の中心方面に歩いていく。教会もあったり、パステルカラーの建物が美しい。土産物屋などが続くなど、かなり大きな街でアップダウンがあるので少し疲れるが、楽しい街歩きである。観光客はかなり多い。
中心部の狭い街路には土産物屋などが続くなど、かなり大きな街でアップダウンがあるので少し疲れるが、楽しい街歩きである。
観光客はかなり多い。 街を一周して、トンネルを抜けて駅の方にもどると、海岸の崖沿いに隣の村、マナローラに続く愛の小径Via dell’Amoreがある。
この途中にバルがあり、ワインを飲めるということで期待していたのだが、なんと通行止めになっていた。崖崩れなどでそのようなことがあることは聞いていたが、ホームページや駅などにはどこにも記載がなかった。観光客はがっかりして駅の方に引き返していた。 美しい海岸沿いの道であった。 チンクエ・テッレ第1のリスクである。これで当初の予定が完全に崩れた。駅に戻ったが次の列車まで1時間以上ある。早めに街歩きを切り上げて、列車に乗ればよかったのだが。
船は30分後に出るが、モンテロッソ行きしかないという。時刻表に他の村に停まるとなっているではないかというと、波が高いから船をつけられないという。そのような高波ではないように見えたが、それぞれの港に防波堤がないため、少しの高波でも、船が停泊できなくなるようだ。後でこのリオマジョーレで船になるときも、波により船が大きく揺れ、足を運ぶのがかなり難しかった。この船がチンクエ・テッレの第2のリスクである。
ただ、海からカラフルな村を眺めるのがチンクエ・テッレの観光のハイライトだから、途中の村を眺めながらモンテロッソまで向かうこととする。しばらく、港の近くのカフェで白ワインを飲んで時間をつぶして、船に乗る。 船はかなり揺れたものの、チンクエ・テッレの5つの村は海から眺めるのは素晴らしい。崖に張り付くようなパステルカラーの集落は童話の中の村のようで美しかった。途中の村には立ち寄らないものの、船が出たからよかったと思う。ワインを飲んでいるのか、乗客もモンテロッソ!と大声を合わせて叫び(意味不明!)、機嫌よく旅を楽しんでいた。ドイツ人の観光客が、今年の夏は寒かったので、暖かいところに観光に来たと言っていた。
【マナローラ駅】
【ヴェルナッツァの集落】
【モンテロッソ】 モンテロッソはチンクエ・テッレ最大の集落である。港周辺も観光客が多い。
モンテロッソは平坦な地形で、崖に張り付く他の集落のような景観の面白さはないが、長く続くビーチは魅力的で、多くの観光客がデッキチェア-で、寛いだり、泳いだりして、遅い夏のリゾートでのバカンスを満喫していた。
ここから列車に乗って、まだ訪れていない東から2番目の村のマナローラに戻ることとする。愛の小径を通ることができれば、すでに着いていたはずである。列車の切符はすぐに買えないので、乗り降り自由なチンクエ・テッレ・カードを購入する。ただ、列車のみのカードはなく,愛の小径の入場券とコルニリアの集落に向かうミニバスの切符がセットになった券しかないという。しかも愛の小径は利用できないので、メリットは少ない。しかし、列車のチケット購入に時間がかかることによる損失を考えると、カードを購入したほうが良さそうだ。
ところが、来た列車に乗ると、これが快速列車で、マナローラに停まらず、最初に降りたリオマジョーレまで行ってしまった。車内放送はなく、列車には行先表示がない。リオマジョーレから逆方向の列車に乗るが、果たして各駅停車なのか、快速列車なのか、駅に掲示されている時刻表を見て停車駅を個別に確認しなければならない。アメリカ人の観光客もみんな不安になっていた。
列車が遅れることも多いので、発車時刻で判断するのも難しく、快速停車駅では、各駅停車かどうか相当の注意を要する。イタリアでは着いた列車がどこへ行くか誰も確信できないのが実情のようで、違っていたら戻ればよいというのが、一般的なイタリア人の考えのようである。このようにチンクェ・テッレ各村に停車する列車は便利な交通機関であるが、同時にチンクェ・テッレ第三のリスクである。
このように、チンクェ・テッレはかなりのリスクを伴う観光地である。このあたりになると、ストレスは極限に達して、口数も少なくなり、不愉快な気分になってきた。
逆方向(レヴァント方面)の各駅停車に間違いなく乗り、予定していた時間から2時間近く遅れてマナローラに着いた。テレビ番組で女優の黒谷友香がこの村を訪れたのを最近見たばかりである。マナローラの村中心部はいい街だ。街歩きをするうえで、大きすぎもせず、田舎町の雰囲気が漂っている。駅からトンネルを抜けると海に近い街のメインストリートに出る。観光客がたくさん歩いている。海岸方向に向かうと道路の突きあたりがテラスのようになっていて、海が眺められる。
山側に向かうと土産物屋やレストラン、ジェラート店などが軒を連ねている。ジェラートはトリップ・アドヴァイザー推薦店でいただく。特産のレモンのジェラートが爽やかな酸味と濃厚な香りでおいしい。
さらに登って行くと、教会があり、その隣が展望台になっていて、眺めが良い。
さらに進んで海方向に右側に曲がると住宅街で、細い道が続いている。反対側の斜面にはぶどう畑が広がっている。その一角にビリーのレストランがある。
テレビでも取り上げられていた人気の店で、時間が間に合えばムール貝を食べようと思っていた店だが、4時を過ぎてしまって、もうすぐディナーの時間だろう。テレビに出ていたビリーのお父さんはテレビで見たのと同じ様子で、ぼうっとしていて、何を言っても反応がなかったが。
教会のわきから斜めに細い道を登っていくと、ブドウ畑の中の道になる。実に気持ちの良い道である。
集落と谷を隔てて反対の西側斜面の道のため、西日に照らされてパステルカラーの丘に張り付いた集落が正面に良く見える。
そのまま海のほうに進んでいくと、海に突き出した岬に至り、海岸に突き出た集落が反対側に見えるようになる。岬の端には墓地があり、亡くなられた方々の写真やプロフィールが掲示され、土地の人々の先祖に対する愛情や伝統を大事にする心を感じる。花も咲き、海に抱かれた集落が夕日に映えて美しく輝いていた。
坂道を集落に降りていくと、台車で引き揚げられたボートの並んでいる集落の中央の道に出た。
この道の展望台のテラスを過ぎて道を山側に曲がり、トンネルをくぐって駅に戻ると、まもなく列車が着いた。各駅停車の駅のため、快速は停まらない。
次の村はヴェルナッツァVernazza。小さな村だ。駅から土産物店の並んだ細い道を少し歩くと海岸に着く。
集落の反対側は断崖で、その頂上に砦がある。登る元気もなく、地中海に沈みつつある夕日と海を静かに眺めているのも悪くない。
広場では猫が遊んでいた。
洞窟の様な自然にできたトンネルをくぐると静かな海岸が広がっていた。断崖の反対側の海岸である。
再度列車に乗って、レヴァントに戻ることにする。駅に行く途中、チンクエ・テッレ名物の甘口ワイン、シャケトラを売る店があったが、これは夕食の際に飲むこととしよう。
ディナーを予約したレヴァントのレストランOsteria Tumelinはホテルと反対側の海に近い町のはずれにある。このあたりはレストラン街で規模の大きなシーフードのレストランが軒を並べている。
ほとんど満席状態。「海の幸の盛り合わせFrutti di mare alla Marinara ワイン、ニンニク、パセリ」と、「ムール貝のワイン蒸しMusccil alla Marinara」を頼もうとしたら、似ているから違うものにした方が良いといわれた。そこで、ムール貝はワイン蒸しではなく、「ムール貝の詰め物Muscoli Ripieni」を選ぶ。
パスタはお店の名前を冠したスパゲッティ・トゥメリンSpaghetti Tumelinというものを。シーフード、トマトソース、ガーリック、パセリ、カレー、イカ、エビを加えたもの。
シーフードのミックスは、実際はほとんどムール貝とアサリで、イカが少し入っていた程度。かなりの量のムール貝に多少飽きてきた。
一方、ムール貝の詰め物はアンチョビなどの魚肉やガーリックなどの詰めもので、かなり味は複雑、ジューシーでなかなかの味わい深いだ。
スパゲッティのカレー風味のシーフードもなかなかユニークで良かった。タコのカルパッチョも食べてみたかったものの。3品でもかなりの量である。リゾットも頼んでみたかったが最低2人前からということで断念。隣の夫婦はロブスターのグリルを1人前ずつ頼んでいたが、さすがに量が多く、残していた。
ワインはチンクェ・テッレの地ワインDOCチンクエ・テッレCinque TerreのSASSARINI、CIAN DU CORSUを注文したが、これがうまい。
日本には未輸入のようだが、村のワインショップでSASSARINIは売られていた。しっかりとしたコクのある味わいで、イタリアの白ワインのイメージを変えるワインである。ヴァレ・ダオスタもそうだが、イタリアの白ワインは、有名な産地でない方がよさそうだ。デザートワインで有名なシャケトラも味見で1杯頼んでみた。濃厚でコクと香りがあるデザートワインだが、どこか海の香りや酸味とフレッシュさが感じられる。
ホテルへの帰りには疲れたのでタクシーを呼んでもらった。ところが、ホテルの名前を告げると、タクシーの運転手がホテルの無料送迎バスがあるからそちらに乗ったほうが良いという。信じられないほど親切な運転手である。自分のところにレストランがあるにもかかわらず、レストラン街に無料送迎バスを出すホテルも素晴らしいが。チンクエ・テッレの3つのリスクをすっかり忘れ、楽しい気分になったレヴァントの夜だった。