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食べる通信が日本を変える

 食べる通信エキスポ&マルシェ

全国の食べる通信が一堂に会する「食べる通信エキスポ&マルシェ」が3月5日に渋谷区千駄ヶ谷で開催されました。昼の部と夜の部の2構成で、カフェのテラスでは食べる通信で特集した食品が販売されるテラスマルシェが、カフェでは、昼の部として、食べる通信エキスポ大食味会、食べる通信編集長によるプレゼン総選挙、福岡伸一さんと近江正隆さんにより基調講演が、夜の部として、食べる通信大懇親会と編集長によるプレゼン決選投票が行われました。カフェでは全国から取り寄せられた、地域の食材による多彩な料理が提供され、食べる通信の編集長と600人を超える来場者の交流で盛り上がりました。

プレゼン総選挙では全国の食べる通信から23人の編集長が立候補し、敗者復活戦を含めた決選投票の結果、「高校生が伝える福島食べる通信」1位となりセンターを獲得、2位に「水俣食べる通信」、3位に「北海道食べる通信」が選出されました。

食べる通信との出会い

私が食べる通信と出会ったのは2014年の夏です。以下は当時投稿したブログの記事です。

ワインエイド2014、被災地の復興をワインによって支援しようとするイベントが7月11日と12日に開催されました。岩手県の山田町で第八開運丸の船主として漁師を営まれる粕谷智康さんと直之さんの兄弟とNPO法人東北開墾の代表理事高橋博之さん、柳沼淳子さんによるトークショーが行われました。

高橋博之さんの発行する「東北食べる通信」で紹介、第八開運丸で漁師さんが採った貽貝(シュウリ貝)、ムール貝に似ていますが、大きく肉厚でジューシーです。この日はグラタンに調理して供されましたが、ワイン蒸しも良さそうです。地域の特産品で被災地が一日も早く元気になってもらいたいものです。

この高橋さんの「東北食べる通信」、食の情報誌と生産物が毎月セットで送られてくるというもので、生産者と消費者との絆を深めていこうとする画期的な試みです。私も早速定期購読を申し込みました。「四国食べる通信」も発行され、今後、全国展開を予定しているようです。地域再生の一つのツールとなることでしょう。

急速に全国に広がる「食べる通信」

このイベントを契機として、東北食べる通信を購読してから1年半が経過しました。その後、伊豆食べる通信や下北食べる通信などが相次いて創刊され、すでに全国で26(準備中も含む)の食べる通信が刊行されているとのことです。北は北海道から南は鹿児島県長島町まで、カバーしているエリアは単一の市町村もあれば、さらに広い地域や道や県、東京の築地というのもあります。発行主体も株式会社、有限会社、一般社団法人から個人まで様々。購読料は2000円から4000円程度までで、月刊、隔月刊、季刊など、こちらもかなりバラエティに富んでいます。

食べる通信の運営主体は非営利団体や地域の企業や個人だけでなく、全国ネットテレビ局子会社の社内ベンチャー(築地食べる通信)、漁業組合の新事業(綾里漁協食べる通信)、地方自治体の副町長によるもの(長島大陸食べる通信)と、幅広い参画があります。「食べる通信」を運営する編集長も多士済々。東北食べる通信編集長の高橋博之氏は岩手県知事選挙に立候補して惜しくも次点となり、東北の復興のためにNPOを設立した方です。ほかに飲食店経営者、脱サラして故郷に戻った人、地域おこし協力隊員、副町長(総務省からの派遣)、テレビ局プロデューサー、地方新聞社の社員など実に多彩です。

この日の編集長によるプレゼンでは、総選挙で1位となった「高校生が伝えるふくしま食べる通信」が多くの人々の共感を呼びました。福島県立安積高校の生徒が編集する食べる通信です。2014年高校2年生だった菅野智香さんが原発事故の風評被害で苦しむ福島県ために何かできないかと始めたものです。若い社会起業家を育成する社団法人「あすびと福島」の実施する高校生のためのオープンスクールに参加して、その支援により事業化が実現しました。2015年4月に第1号が創刊され、現在高校2年生の西村智真君が2代目編集長に就任、4人の高校2年生が編集部メンバーとなっています。特集する農産物の選定や生産者の取材・原稿執筆、レシピ作りなど、情報誌の発行を通して事業を実践する場となっています。DSC04114DSC04157DSC04108DSC04190

DSC041162位となったのは「水俣食べる通信」、編集長は 諸橋賢一さんです。水俣病のイメージがいつまでも風評として付きまとい、農水産物のブランド化の障害となっている水俣において、安全安心な食べものの特集記事に生産者の思いを伝えることにより、水俣の生産者と消費者の新たなつながりつくろうとしています。DSC04138 DSC04139

3位となったのは本イベントの実行委員長である林真由さんが編集長をつとめる北海道食べる通信です。林さんは北海道十勝地域の地方紙、十勝毎日新聞の広報企画担当、銀座の「お取り寄せダイニング 十勝屋」の支配人で、食べる通信だけでなく、この店でも北海道の生産者から届いた食材を味わうことができます。

食べる通信と地域の再生

高価でも品質の良い食品を日本人が買うようになることが最も重要であり、「分断された生産者と消費者を情報でつなぐことが、一次産業再生のカギ」と食べる通信の創始者で「日本食べる通信リーグ」代表理事の高橋博之氏は述べています。

高度な消費社会が進展する中で、大量に安く生産する「効率性」が、家電製品などの工業製品と同様に食べものの世界にも求められてきました。スーパーで大量に売られる、規格品として統一化された野菜がその例です。

農林水産製品も工業製品と同様に競争原理の中で価格競争にさらされてきました。そのためには効率的な大量生産によりコストを下げる他なく、効率性を追求する過程で手間暇を省き、大量の農薬や工業肥料の使用により、たとえ健康に良くなくても、土壌環境を破壊しても、味を犠牲にしても、安くて大量に売れる製造業型の農業が続けられてきました。

テレビ、携帯電話、情報家電電子機器など日本の製造業が韓国や台湾に敗れてシェアが縮小しているように、大量生産、規格型の産業は、経済のグローバル化が進む中で成熟国家における産業としての存立が厳しくなっています。わが国の農業もTPPの影響により、今後さらに厳しい環境に置かれることが懸念されています。しかし、これは大量生産型の農業に言えることです。青森県のリンゴ生産に見られるよう、手間暇かけてつくられた品質の高い農産物は、海外でも高い評価を獲得していて、輸出が拡大しています。

米は日本の基幹作物として、政府により保護されてきましたが、一般には手間のかからない作目であり、米離れにより全般に価格が低下する一方で、有機無農薬や減農薬により、手間暇かけて栽培された米は高い価格で取引されています。海外でも上質な日本の米は人気があります。

このような農業をめぐる状況の中で、日本人の間でも安全・安心で質が高く、手間暇かけて作った生産者の顔が見える食を求め、美味しくて体に良いものを食べて質的な豊かさを実感できる食生活を送りたいという国民の欲求が、次第に高まってきているのではないでしょうか。

このような日本人の質の高い食生活のスタイルを一つのブランドとして確立することが、日本の食を世界一流のものとして世界中に認知させ、日本の食材の輸出を拡大させ、観光ではインバウンドで日本の食を楽しみに来る外国人観光客を増やし、地域経済の活性化にもつながるのではないかと思います。

イタリアのスローフード運動

イタリアではマクドナルドのローマ進出を契機として、イタリアの地域に根差した食を普及させようとするスローフード運動が立ち上がりました。イタリアでのスローフード運動は全土に広がり、国際スローフード協会設立大会でのスローフード宣言を経て、国際運動となりました。 伝統的な食事、有機農業、健康によいものに世界の人々の関心が向かうようになり、世界各地で教会の支部が設立され、共鳴者を集めています。

現在でもイタリアでは地域独特の食文化が存続しており、州ごとにレストランの料理のメニューが全く異なります。日本ではバーニャカウダが全国のイタリアレストランのメニューにありますが、イタリアではピエモンテ州の郷土料理であり、ピエモンテ州在住のイタリア人が日本に来て驚いたとのことです。イタリア料理は世界各地で親しまれています。イタリアのワイン、生ハム、チーズ、オリーブなどの食材は、重要な輸出産業となっています。それは、スローフード運動にみられる、イタリア各地の郷土料理や食材を愛する人々の誇りや愛情に支えられています。

日本の伝統料理、伝統食材と世界文化遺産としての和食

日本でもイタリアと同じように、地域の伝統野菜や伝統料理があります。しかし、大量生産型の農産物の普及や全国チェーンに代表される全国画一のレストランメニューの普及により、伝統野菜や伝統料理は絶滅危惧種になっているものが少なくありません。イタリアと同じように、地域の食を愛し、地域の食文化を大切にすることが、地域の文化や伝統に根差した伝統野菜や伝統料理を普及させ、安全・安心で健康な食生活を確保し、農産物や加工食品の域外への移出や地域独特の食に出会うことができる魅力ある観光を通じて地域経済を活性化することにつながります。

平成25年12月、和食はユネスコの世界文化遺産に登録されました。「自然を尊ぶ」という日本人の気質に基づいた「食」に関する「習わし」を、「和食;日本人の伝統的な食文化」と題して、ユネスコ無形文化遺産に登録されたとのことです。世界中の人々から和食を中心とした日本食は愛されています。ただ、世界の和食レストランの中には日本がイメージする和食とは全く異なるものもあります。日本人が自ら和食を誇りに思い、日常的に愛して、伝統的な和食を将来に伝承していく努力を怠らないことが、世界遺産文化として評価される和食をさらに世界に広げていくうえで重要です。

平成28年3月18日に閣議決定された第3次食育推進基本計画では「和食」の保護と次世代への継承のための産学官一体となった取組を新たに進めることとしています。

食べる通信が地域の食文化の発信を通じて日本を変える

全国で展開されつつある食べる通信は、日本各地の食文化を生産者の声と共に全国には発信しています。大量生産、画一型の生活のなかで日本人が失いつつあった、日本全国の地域の誇りを食を通じて取り戻す運動に進化しつつあることを感じます。地方創生のポイントは地域の文化や歴史を見直して、地域の誇りを取り戻し、地域の素晴らしい資源を全国、全世界に発信して、ビジネスとして展開することにあると思われます。イタリアのピエモンテ州から発生したスローフードの運動は、またたく間にイタリア全土に広がり、食の世界におけるイタリアという国の存在感を全世界に示すきっかけとなりました。ミラノで食をテーマとした万博が開かれたのも、スローフード運動があったからこそです。創刊から2年半で急速に全国に広がった食べる通信は、地方創生の秀逸なビジネスモデルであるだけでなく、イタリアのスローフード運動のように、さらに全国展開することにより、日本を変えることが期待されます。

 

http://taberu.me/tohoku/

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