2月19日に大手町の大手門タワー・JXビルに新たに開設された「3×3 Lab Future」で、豊岡エキシビション2016が開催されました。
学校形式で開催され、授業やHRをイメージして、チャイムが鳴るなどこだわった演出です。
1時限目はエリア・イノベーション・アライアンス代表理事で最近「稼ぐまちが地方を変える」という本を出された木下斉さん本のタイトルと同じ演目の講演です。
補助金に頼ることが地方を衰退させる
地域再生マネージャーの中には、かつて、国の競争的補助金を導入する能力で勝負する人がいましたが、今は全く重要ではなくなっています(重要と思っている人はまだいます。)。地方創生(現内閣の言い方)にとっては重要なのは、お金を継続的に生み出す仕組みを作るということで、1回限りのお金をもらうことでは実現できません。地域再生マネージャーの任務は、地方でお金を稼ぐ仕組みをいかにして作るかということにあります。基調講演としてふさわしい内容でした。
要は地域のビジネスをいかに立ち上げるかということです。地域の誇りとなるような、地域の優れた資源を生かすことができれば、他の地域に負けない地域の持続可能性という面からさらに良いでしょう。
岩手県紫波町のオガールプラザ
木下さんが事例として取り上げておられます。今では業界では誰でも知っている事業ですね。オガール紫波のプロジェクトとして、10の民間テナント(飲食・物販・医療・教育系)と、紫波町が運営する情報交流館(図書館・地域交流センター)で構成される『官民複合施設』です。図書館に訪れた住民が民間テナント施設を利用するため、採算性が高まります。建物は公共施設にありがちな高価な仕様ではなく、民間テナントの採算をベースに建築単価も決められているところが、従来の行政主導の再開発における合築施設、木下さんのいう「墓標」などと異なることです。
行政の有する施設、インフラ、その他資源を民間との共同により最大限に活用して、税金や公的な財産を最大限に有効活用することは住民にとっても利益の大きいことであり、これはむしろ都市部で進んでいるのではないでしょうか。公民連携の基本ですが、従来型の頭の固い自治体には不得意な分野です。
行政だけでなく、活用されていない地域資源を最大限活用して、ビジネスに結び付けていくことが重要となっています。公共施設や空き家のリノベーション。採算ラインを下げることができるとともに、短期間の準備期間で開業が可能なため、事業採算の見通しがつけやすいとのことでした。
さらに、事業化にあたって、金融機関が関与するにより、採算性のチェックが行われ、収益性の確保が可能になります。
2限目は編集長会議「メディアが見た地方」です。地方情報誌の編集長さんたちのパネルディスカッションが行われました。事例で面白いと思われたことを紹介します。
南魚沼の里山十帖
クリエイティブ・ディレクターで「自遊人」編集長の岩佐十良氏が南魚沼、大沢山温泉の民家をリノベーションしてオープンした旅館です。住空間や環境、衣服などの分野まで「編集力」を活かして、雑誌を読むように体験・体感する「ライフスタイル提案型複合施設」という新たなジャンルを開拓したとのことで高く評価されています。食ついていえば、地元の食材を利用しながら、田舎料理ではない高感度でレベルの高い食事を提供しているのが良いですね。地元のワインは酒も味わえます。質の高いライフスタイルを贈る都会生活者が、生活の質を落とさずに、里山の古民家で非日常的体験を行える施設というところでしょうか。
岡山県、西粟倉村の森の学校
村が地域のローカルベンチャーの支援をしています。地域の地域のブランド力を高めてプロデュースする地域商社が西粟倉・森の学校です。あわせて企業家の育成をしています。リーダーがかなり素晴らしい。
島根県邑南町
日本一の子育て村の推進もいいのですが、A級グルメ構想。これは本当に賛同できます。ゆるきゃらやB級グルメに頼る地域の再生はありえないことです。世界的に評価され、住民が穂滓に思うような、地域の資源を活用した食文化を作り上げるべきです。フランスのミシュランには地方の不便な地域の星付きレストランがたくさん掲載されています。地域のワインや食のブランドも全国的にAOC認定されています。邑南町の公募による耕すシェフの人材育成と起業推進がいいですね。邑南町が運営するイタリアンレストラン「里山イタリアンAJIKURA」が食の情報発信をしています。邑南町職員の寺本 英仁 さんが先頭に立って推進しています。
広島県尾道市
自転車ごと宿泊可能なサイクリスト専用ホテルを中心とするサイクリスト向けの複合施設。サイクリストの聖地として注目され、外国人の利用も多いようです。
3時限目は事例発表「豊岡の挑戦」、中貝宗治市長による講演です。この講演は素晴らしいものでした。ここまでの授業は前座あるいは前奏曲であったに過ぎないとうことが、この豊岡市長の話が始まると明らかになります。
まず、豊岡市の明確なビジョンが語られます。人口が減っていくのはやむをえないとしても、いかに若い人々が豊岡市を愛し、大学進学で減った人々が豊岡に戻ってきてくれるか、そのためには、豊岡は明確な地域のビジョンをもちそのなコンセプトのもとに、長期的な展望にたって、戦略を展開しています。
それは現内閣が地方創生を掲げ、交付金などの地方への金配り政策を始めたといこことと異次元の対応であり、国の政策とは関係なく地域の歴史や資源、文化、世界の動向などを総合的な判断して、地域の戦略やビジョンを掲げて実行しているということです。
豊岡市のビジョンとして特に重要なのは文化と環境です。
その前に観光について。3階建ての伝統的家屋の日本旅館の街並みと外湯、足湯など魅力ある温泉町、日本海の海の幸が楽しめる城崎温泉、日本的な街並みと蕎麦の出石、日本的な街並みが外国人の観光客の増加につながっています。
1.世界に発信する文化政策
1000人収容のホールがある宿泊型会議・研修施設である県営の施設であった旧城崎大会議館を豊岡市が譲り受け、リノベーションした施設で、温泉街の中に位置する舞台芸術を中心としたアーチストの滞在型の創造活動、いわゆるアーティスト・イン・レジデンスの拠点となっています。ホール、スタジオ、レジデンス(宿泊施設)で構成されています。。
公募によって選ばれた数名のアーティストやカンパニーを招き、最短3日間~最長3か月の間、城崎国際アートセンターに滞在して24時間自由に活動でき、その間の宿泊費やホール、スタジオ使用料は無料です。アーティストが滞在制作した作品を城崎で発表することはもとより、日本中、世界中に新たな作品を送り出すための活動を支援します。 世界から東京を経由することなく豊岡にアーチストが訪れ、世界に向かって活動を行うことにより日本はもとより、世界中に発信する、共同制作の拠点をめざしています。
明治34年に開館し、歌舞伎や新派劇、寄席、活動写真など但馬の大衆文化の中心として栄えた永楽館が昭和39年に閉館。壊さずに保存されてたものが、大改修により平成20年に復元されました。明治期に残る芝居小屋としては近畿地方に現存する唯一のもので、平成26年には兵庫県重要有形文化財の指定を受けました。片岡愛之助氏が毎年永楽館歌舞伎を開催するほか、各種公演やイベントの開催、一般公開を行っています。
コウノトリは肉食性で、ドジョウ、フナなどの魚類をはじめ、カエル、バッタなどの生きた小動物も餌とするため、農薬の普及によりこれらが死に絶えたため、一次は絶滅しましたが、2005年の試験放鳥から関係者の努力により現在は80近くになっているようです。この実現には、コウノトリを育可能にするための環境整備が大きな役割を果たしています。
減農薬75%以上または無農薬、化学肥料不使用のコウノトリをはぐくむ米の栽培を進めてきました。河川の湿地、干潟を再生し、ビオトープも整備しました。
子供達には環境教育として、米の栽培を体験させ、「祭り」や「遊び」を授業に取り入れながら、コミュニケーション能力の育成を目指して、食育や環境教育と故郷に誇りを持たせる教育を実践しています。
3.地域産業政策
豊岡鞄
柳こうりから発展した鞄産業ですが、円高や企業の海外移転など中国の影響などで、厳しい状況あると思っていましたが、地域ブランド化を進め、優れたデザインが認められて、生産がプラスに転じているようです。
地域住民のライススタイルを魅力あるものにすること。住んでみたい魅力ある地域とするために重要なことです。豊岡の取り組みは文化、環境、地域産業などをテーマに、地域のあるべきビジョンを描き、それに向けて情報発信力のある質の高い様々な施策を組み合わせながら実施しているということがわかります。
ちょっとアルザスに似ています。環境保全を目指して中心部から車を排除して、LRTを走らせたストラスブールや水辺空間の保全を目指すコルマールの取り組みを思い出せます。アルザスの美しい村にはコウノトリが営巣しています。
志賀直哉の「城崎にて」でも有名な城崎温泉。NPO本と温泉を設立して、小説本を城崎温泉で限定販売するプロジェクトを進めています。今回は小説家、万城目学さん書きおろしのお風呂で読める小説『城崎裁判』がなぜかこの会場でも限定販売されました。第3弾の湊かなえさんの「城崎にかえる」の制作発表もありました。
盛りだくさんの内容の詰まった「豊岡エキシビション2016」でした。しかし、この手のイベントでは珍しく(?)市長の話が一番面白く、感動しました。稼ぐ地方創生プロジェクトも確かに重要ですが、まず重要なことは、その前に地域の将来にどのようなビジョンを描くかということですね。そのビジョンを実現するための様々な戦略を組み合わせて実施していうこと。その際に持続的に事業を実施していくためには、稼ぐ事業を実施して、地域でお金が回るようにすることが重要ということではないかと思います。
地域の活性化を進めるためには、様々な分野の高度な人材が関与し、事業経営をマネジメントしたり、地域住民に対して助言・指導したり、活動を支えていくことが重要です。そのような意味で、豊岡エキシビションのようなイベントを毎年東京で実施したり、「コウノトリの恵み」というアンテナショップを有楽町に置いたりするなど、人口8万人の都市が外部の人々との様々なつながりを作り上げるために努力していることは、本当に素晴らしいことではないかと思いました。