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有力ブランドの不在が地域の文化的創造性の低下を招く

静岡県東部地域は、先進的大型商業施設の不在による有力ブランドの空白化により、全国的には死に絶えた生命力の弱いブランドが、未だに生きながらえており、アパレルの生態系が全国の他の地域とはかなり異なった状況となっている。言いかえると環境要因により、アパレル市場が進化を遂げずに残されていて、アパレル系の売り場面積はかなりあるものの、需要を掻き立てるような強力なブランドに乏しく、アパレル関係の消費市場の質が全国的に見ても相当低いレベルにとどまっていることが想定される。

 このような状況はあくまでも外部要因によるもので、住民に内在するものではない。藤沢市のテラスモール湘南に見られるように、湘南地域初進出の店舗が多数出店することにより、近隣に既存の大規模ショッピングモールがあり、消費構造が成熟した都市的地域であるにもかかわらず、新たな消費が掘り起こされ、駅に隣接という良好なアクセス条件も加わり、遠方からの来店者も加わって大変な賑わいを見せ、地域の消費市場の質を向上させているというようなケースは他の地域でも見られることである。

 集客力の大きい、質の高いショッピングモールや百貨店の出店が、地域の消費市場の質的向上を促し、マーケットの活性化につながる。静岡市では西武静岡店が撤退し、後継店としてPARCOが出店したが、このテナントリーシングのレベルの高いFBの進出がさらに静岡伝馬町プラザビルにSHIZUOKA109を出店させるなど競争が激化し、消費市場を質的に向上させ、新たな商業集積を生み、そのことがさらに消費を活性化させるという、上昇スパイラルをもたらしている。

 したがって、静岡県東部地域でも売場面積が広く、快適性や高級感があり、集客力あるブランドや店舗が出店する百貨店やファッションビル、快適なショッピングセンターが立地して、静岡県中部地域、西部地域並みにナショナル・ブランドが出店すれば、あるいはテラスモール湘南のように静岡県初出店ブランドが出店すれば、現在のガラパゴス状況から脱却し、アパレル関係の新たな需要が掘り起こされるとともに、消費レベルは高まることだろう。

 この問題の本質はファッション市場の活性化が地域住民の文化的志向の向上につながるということである。ファッションはデザインなどの芸術文化と密接に関連する分野であり、ファッション市場の質は地域住民の文化的向上心に密接な関係がある。食文化も食育の重要性が指摘されるように、健康に関連する地域固有の文化として重要だが、衣服の選択・購入は自己の個性の表現という意味で、個人の日常的な創造活動の一つであり、ファッション関連の消費市場の質的水準は、地域全体の創造的な経済活動を反映するものとして食文化以上に重要性をもつのではないだろうか。

 この問題は静岡県東部地域の文化施設の空白状況と密接に関係しているように思える。静岡県東部には音楽専用ホール、劇場、公立美術館、総合大学がない。ヨーロッパを見ると、ファッションとワイン、食文化、サッカーがかなり重複している。日本でも、京都、金沢、神戸、青山、銀座、横浜など、芸術・文化、食、ファッションの水準と、これらに関連する中心市街地の賑わいが重なりあっている。

 目の肥えた消費者が多数存在することが地域の高品質の製品の開発を可能にし、地域の経済発展につながる。地域住民の文化的向上心の低下が、消費市場の質的低下につながり、ホンモノ志向、文化的志向の強い住民によって支えられるべき地産地消的な消費意欲を低下させる。そのことが地域産業における創造的な製品開発力、文化的生産能力を減退させることになるのではないだろうか。

 西武沼津店撤退自体は大きな問題ではないかもしれないが、ナショナル・ブランドの不在がさらに深刻化して、静岡県東部地域のアパレル消費市場におけるガラパゴス状況がさらに進み、消費市場の質的低下がブランド店の撤退を招くという、消費市場における負のスパイラルがさらに進行することが危惧される。さらに、このことが地域全体の文化的創造性を低下させ、地域産業の創造的な事業活動の停滞を招くとしたら、それは大きな問題ではないだろうか。

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