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伊豆大島の台風26号災害における危機管理

 

images台風26号による東京都大島町における被害が大きくなった最大の要因は、多くの報道が指摘するように、町が避難勧告・避難指示を発令しなかったことにあると考える。降雨情報が役場に伝った時点で、避難勧告よりも避難の緊急性が高い避難指示を発出すべきであった。

伊豆大島は昭和61年の三原山の噴火災害時に全島民が避難を経験している。このとき、当時の大島町の秋田助役と政府の中曽根総理、後藤田官房長官、佐々内閣安全保障室長らの強力なリーダーシップと危機管理能力の高い体制のもとに、全島避難という英断を行い、実現したことは、危機管理関係者の間では有名な話である。当然、大島町の行政当局の危機管理のレベルは相当高いものと考えていた。

報道によると、住民は火山噴火に対する意識は高いが、台風による水害の意識レベルが低かったようである。しかし、行政に関してはそのようなことはなかったと考える。火山の噴火被害が発生している地域は、火山灰などの噴火堆積物により地質がもろく、地滑りなどの土砂災害が発生する危険性が大きいからであり、その防止のための砂防工事もかなり行われていたからである。

それでは、なぜ避難指示・勧告は発出されなかったのか。気象庁は大島町に対して午後5時38分に大雨警報を、午後6時5分に土砂災害警戒情報を発令した。報道によると警察からも避難勧告をするように町当局に指示があったという。町長の発言によると、勧告をすることより、避難途中に被災する危険性が高いと判断し、避難勧告は出さなかったという。確かに洪水の場合には、避難するよりは自宅の2階などにとどまっていた方が良い場合もあるだろうが、土砂災害の危険性がある場合は、家屋の損壊を伴う甚大な被害が想定される場合が多く、伊豆大島のケースでは雨量の状況や火山灰の堆積などから見て、避難指示を発出するケースだろう。

今年8月30日から気象庁により特別警報の運用が開始されたが、「「特別警報」が発表されたら、ただちに命を守る行動をとってください。」というメッセージは、台風18号における発令などで国民にかなり浸透してきた。今回、この特別警報が気象庁により発出されなかったことが問題になっている。大島町の雨量は特別警報の基準となっている50年に1度の雨量を超えているが、特別警報は「県程度の広がり」がある広域的な大規模災害を想定し、市町村単位の情報は警報や注意報で対応しているとのことだ。しかし、今回のように局所的災害でも被害が甚大になるケースは十分に考えられ、このような考え方は理解できない。むしろ、特別警報という高いレベルの災害情報を設けたことにより、従来の警報、注意報が軽く受けとめられた可能性がある。気象庁は、災害情報を危険の度合いに応じて5段階に分ける「気象警戒レベル」を検討しているようだが、今後、いつでも発生しうる重大な災害のために、直ちに特別警報の運用見直しが必要だと考える。あわせて、気象庁の情報に依存するだけでなく、自ら状況を判断して、対応を考える市町村や住民の意識も重要である。

今回の災害の危機管理にける最も重要な問題は、危機管理の中心となるべき町長、副町長の不在である。このことが避難指示・勧告が適切に発令できなかった大きな要因ではないかと推測される。これらの発令には政治的リーダーシップが必要だからである。

気象庁は、16日午後、台風26号は、首都圏では10年ぶりの強さの台風であるとして警戒を呼び掛け、マスコミも頻繁に報道していた。離島という交通途絶に危険性のある自治体において、台風の接近が予想されているにもかかわらず、町長と副町長が共に島を離れて遠方に赴くということは、危機管理に関して認識が根本的に欠如しているとしか言いようがなく、行政をあずかる者として共に不適格である。島根県の離島で開かれた日本ジオパーク全国大会に出席するため、15日から不在だった町長も問題だが、その留守を預かる副町長がなぜ東京都檜原村という東京都の最西端で開かれた都副町村長会議に出席していたのだろうか。そもそも、伊豆大島のような離島の自治体では、いかなるときでも首長と副首長が同時に島を離れるべきではない。町長不在時に町政を預かることが副町長の最大の使命であり、マネジメントの基本を理解していないというべきである。

さらに、東京都の副町村長会議がこのような台風26号が首都圏を直撃することが予想されていた時に、なぜ開催されたのだろうか。大島町以外の副町村長も当然出席していたのだろうが、他の町村でも台風に関しては同様であり、副町村長不在で、災害対応に関して支障が生じていたことが予想される。この会議は台風26号の進路予想が明らかになった段階で、中止すべき会議であった。このような緊急時に敢えて開かれた会議は、いったい何が話し合われた会議だったのだろうか。最終的な意思決定権限を持たない副町村長が集まって、会議を開く意味は何なのだろうか。

今年は大雨や台風による災害が発生しているが、これまで、それぞれの災害の規模の割には人的被害が比較的少なかったと思われる。これは、避難指示・勧告が適切に発出され、迅速な避難が行われたことが一つの要因と考えられ、全国の市町村の危機管理のレベルが上がってきたのではないかと考えていた。全国各地で住宅の全半壊など甚大な被害が発生した台風18号の際にも、全国の市町村で52万人を対象に避難指示が、118万人を対象に避難勧告が発出されている。今回の台風26号においても、避難指示が3万8千人、避難勧告が5万6千人を対象に発出されており、伊豆諸島では神津島村で322人を対象に避難勧告が出されている。それだけに、過去の経験から災害に対する危機管理体制は万全だと思われていた大島町で、多数の貴重な人命が失われたことは非常に残念なことである。全国の市町村でもこれを教訓として、危機管理体制の点検をしていただきたい。

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