久留米からIR九州のリゾート列車、特急「ゆふいんの森号」に乗って1時間半、日田駅に着きます。「ゆふいんの森号」は木目調のクラッシックな室内、JR九州のデザイン性の高い車両で快適です。難点は車内販売がなく、ビュッフェでの販売が人気のため、博多駅発車直後から長い行列ができることです。特にビュッフェの隣りの2号車では日田駅近くまで行列が続きます。通路を挟んで2席を確保したため、話ができませんでした。連休直前でもチケットを入手できた2号車の人気がない理由がわかりました。
日田は江戸時代に幕府直轄の天領として栄えた街であり、街歩きのエリアは南部の日田温泉のある鵜飼いで有名な三隈川に近い隈町のエリアと北部の歴史的な街並みで有名な豆田町のエリアに分かれます。今回は時間の都合もあり豆田町を訪れることにしました。
日田駅から観光客が訪れる街歩きエリアとして人気の豆田町まで歩いて20分程度、鉄道駅から徒歩で訪れるには微妙な距離です。日田の駅前はマンションなども立ち並び、かなり都市的な景観の市街地で、この地域の中心都市としての、かつての繁栄が窺われます。かつては百貨店の岩田屋など大型商業施設もあったようですが、跡地にはマンションが建ち、今はかつての賑わいはなく落ち着いた街となっています。
豆田町は重要伝統的建造物群保存地区に指定された商家町です。地域の特産品である下駄や土鈴などを売る店があり、酒造の蔵元もあるなど日本的な商店が連なっています。まち全体を貫く二つの通りとその間をつなぐ横町が散策のエリアです。コンパクトに店が集まっていて、散策にはちょうどよいサイズです。
昼食時の食のコンテンツは天領鰻と鮎などの川魚、B級グルメでは日田焼きそばといったころ。店舗数は多くないため、有名なひつまぶしの「日田まぶし千屋」の前には行列ができていて、早々と営業終了になってしまいました。
鰻店「いた屋本家」を予約していたので、ゆっくりと食事できました。この店は鰻のほか鮎の釜飯もおすすめです。いただいたのは鰻のせいろ蒸しと鮎の釜飯、鰻は「上」です。蔵のような和風建築にゆったりと配置されたテーブル、鰻や鮎もしっくり合って美味しいです。
豆田町の街歩きの楽しみは地域の産品を見て歩くことです。豆田上町通りと豆田御幸通りの車の通る2本の通りとその間をつなぐ梯子状の横町が散策の対象です。
上町通りに面したおみやげ処玉屋は地元の作家の製作したお土産物が豊富です。とくにうさぎ雛などのひな人形は手作りで丁寧に作られています。
観光地の土産物店では、全国どこでも見られるものを売る店もあるので注意が必要ですが、このような店は信頼できます。
この店の角を入った横町の魚町通りには江戸時代に建てられた建造物が並んでいて雰囲気があります。
こもれび工房は日田の代表的な特産品、下駄・木製サンダルの製造メーカー直営の店です。和の伝統工芸品として本格的なお土産になります。
豆田御幸通りに出ると国指定重要文化財の草野本家がありますが、残念ながら令和になってもまだ「平成の大修理中」でした。
この近くにある東光堂は土もの専門店、土鈴などの素焼きの工芸品が中心です。平成17年度の年賀切手にこの店の「とり土鈴」が採用されたそうです。土鈴の生産者は全国でも数少なくなっていて、この店のご当主は貴重な存在です。お土産のお薦めは、土鈴のお雛様と泥はじき(おはじき)だそうです。
鳥市本店は鶏肉専門店ですが唐揚げが名物で、食べ歩きもできるようです。
ここから横町の住吉町に入っていきます。
豆田まちづくり歴史交流館は大正時代に建てられた洋風建築、旧船津歯科を改修したものです。休憩所があり、奥にはユネスコ無形文化遺産、日田祇園で曳かれる祇園山鉾の収納庫があります。
同じ豆田まちづくり歴史交流館がもう一つあり、そちらは旧古賀医院を改修したものです。世界的に見ても、診療所建築はリノベーションによる再生と親和性が高いようです。
文化10年建築の酒蔵を改造した秋子想は外見のイメージとは異なり欧風懐石レストランです。広い駐車場があります。
旭窓酒舗と草野薬局。こちらは土産物店ではなく地元住民が日常に使う店です。全国酒類コンクール1位入賞の麦焼酎、初代百助は日田の井上酒造の銘柄です。
この辺りの御幸通りは趣きがあります。草八は蕎麦店です。おしゃれの店水田屋は化粧品店ですが、純和風の店構えです。
油屋町の路地を入っていきます。青い幕にMARUSE(まるせ)の文字、日田の食を伝えると書いてあります。この店、実は手作りスコーンの店です。店内にはスコーンのほか、器や地元野菜もあるなど、地産地消を掲げる感度の高い店で、最近オープンしたようです。
軒先には祇園山鉾の飾りを魔除けとして玄関に飾られる「パイパイ」(白白)を見ることができます。
再び上町通りに戻ります。ふくや酒店の向こうには安政2年開業の国登録有形文化財の岩尾薬舗日本丸館の木造3階建ての建物がそびえています。
北側には寛文9年建築九州最古の真宗寺院様式、国登録重要文化財の長福寺があります。
その斜め向かいにあるのは割烹旅館伯亭若の屋です。こちらは昭和12年建築の3階建ての木造です。
ここを西に入る横町は風呂屋町です。ここまで来ると少し寂しい雰囲気です。この通りにあるのがAreasエリアスという店でガイドブックに掲載されています。日田の工芸品、雑貨を扱うお店で、手作り感があります。
御幸通りに曲がると蕎麦酒処麦屋とクラフトギャラリー日田の里があります。
隣の嶋屋本家は曲げわっぱ、おひつ、桶かご、手ぬぐい、和雑貨などを販売しています。
通りの反対側には明治12年建築のSlan。キッチン雑貨の店です。このあたりは雑貨の店が集中しています。
こだわり大分は大分県産品の店。一村一品発祥の地、日田市大山産の人気の柚子胡椒や梅干を購入することができます。昔の懐かしい雛人形の段飾りもありました。
このあたりが豆田町の北の端です。この先は花月川にかかる御幸橋になります。
花月川に沿った道を行くと薫長酒造の醸造所が見えてきます。レンガ造りの煙突もある江戸時代から大正時代にかけて建築された酒蔵の建物群です。
酒蔵資料館が併設され、試飲もできるなど観光客に対応しています。
連休中ということもあって、マイカーで訪れる日本人観光客が多いためか、酒蔵の前の道路は相当な交通量です。
旅の舎sakabayashiは酒蔵直営のアイスクリームのカフェです。酒蔵オリジナルの吟醸アイスクリームがあります。
向かいにはこちらも酒蔵直営の「天然酵母パン工房&カフェKOGURA」があり、このあたり一帯が総合的な観光施設として楽しめます。観光ビジネスも上手な酒蔵です。
この酒蔵の前もそうですが、豆田町の難点は2つの通りを車がひっきりなしに走っているということ。観光客はほとんどが自動車で来ているらしく、駅から歩いて向う人は少ないようです。ゆっくりと街歩きができないのが残念なところです。
天領まちの駅は道の駅のような駐車場付きの物産・農産物販売所です。一定金額以上の購入で駐車場代が無料になるようです。
ご当地B級グルメとして有名な日田焼きそばの店「宝華」。硬い麺の焼きそばが人気で、かなりにぎわっています。
豆田町をあとに日田駅に向かいます。かつて岩田屋があった中央一丁目の角はマンションに変わっています。
日田市の繁華街の中心、中央一丁目の交差点です。並木があるのは一番街中央商店街、寿通り商店街のカラー舗装はかつてアーケードがあった時代の賑わいが想像されます。
中央一丁目の交差点から日田駅に向かいます。まっすぐ続く通りはけやき通り中央商店街です。
けやき通り中央商店街から左に入って日田駅まで続く通りはアミナード通り中央商店街です。
今でも商店が残っていて、昭和らしいしゃれた洋風商業建築もあり、岩田屋前まで続いた繁華街の賑わいが感じられます。
こちらは平成29年12月に閉店した貸衣装店です。かつて全国花嫁着付コンクール第3位入賞の店も後継者がいなかったのでしょうか。
プノンペンラーメンの店もありました。
駅前の寶屋本店は皿鉢料理が名物と看板がありますが、創業80年の老舗定食食堂だそうです。具たくさんの日田チャンポンが人気のようです。
日田駅に着き、約3時間の日田市豆田町の散策は終了です。
日田市豆田町を街歩きの観点から総合的に評価してみると、いくつかの強味がうかがえます。
一つは地元の木材などを使った特産品の下駄をはじめとする木材加工品、日田産の伝統陶器である小鹿田焼、土鈴、食品では地酒、柚子胡椒など地元産の商品を売る店が多いことが挙げられます。伝統や文化を感じる商店街です。
食のコンテンツでも日田らしさがあります。天領鰻のひつまぶし「日田まぶし」や鮎などの川魚、B級グルメである日田焼きそば、地元食材を使った和食や洋食のカフェなど食レベルの高さを感じます。
街並については、重要歴史的建造物保存地区としては、保存建造物が多く、建築時期も江戸時代初期から昭和初期まで様々な建築様式の建物を見ることができ、一つの地区でこれだけ多様性に富んだ日本の伝統的な街並みを見ることができることは貴重です。
一方、問題点としては交通の問題が挙げられます。JRの日田駅からは徒歩20分くらいでしょうか。微妙に遠いのはやむを得ないですが、このような事情もあり自動車による来街者の比率がかなり多いようです。このためか、2本のメインストリートはかなり自動車の交通量が多く、ゆっくりと街歩きをできない環境にあります。
また、今回は立ち寄りませんでしたが三隈川や宿泊先である日田温泉がある隈町エリアはJR久大本線の反対側にあり、徒歩移動は難しくなっています。ただ、レンタサイクルで移動するにはちょうど良い距離でないかと思われます。温泉に宿泊して半日ほどの街歩きにちょうどよいまちの規模です。自動車の市街地への流入対策を行えばもっと魅力は増すものと期待されます。
日田市ではJR日田駅前にあった大型スーパーのサンリブ日田店が2017年に閉店するなど、中心市街地は厳しい状況が続いています。そのなかで、観光客(特に外国人)に依存しているとはいえ、中心市街地における豆田町の存在は日田市にとって貴重な財産といえるでしょう。外国人観光客については、かつて豆田町を訪れる外国人で多かったのは台湾人でしたが、韓国人観光客が大幅に増加するにつれて台湾人観光客は少なくなっているそうです。今後、政治的事情から韓国人観光客が減少することが予想され、日田市の観光にとっても厳しい事態が想定されます。