JR奈良駅に近い日本料理の店。昨年12月にオープン、1年目にして早くも今年ミシュラン2つ星を獲得しています。ミシュランの関西版ミシュランガイド京都・大阪2017は京都・大阪のみのため、奈良県内の店は会員制のサイトCLUB MICHLINでのみ閲覧可能のため、知名度が高まっていない今が狙い目かと思われます。「カウンター7席、テーブル6席の13席の完全予約制の店ですが、女性グループなどで満席でした。 精進料理の店ではないですが、御主人はニューヨークの精進料理の店のシェフでニューヨークで初となる精進料理店「嘉日」の初代料理長を任され、ミシュラン2つ星を獲得。その後ロンドンでも働くなど、海外での経験のなかで、伝統的懐石料理に対して独自の問題意識を持っているようです。
奈良県という風土、テロワールを反映させた料理ということで、あえて生もののお造りはオープン以来1年間出していないとのこと。
メニューは全9品のお任せのコースのみです。
飲み物リストは日本酒中心で、奈良県産の酒が揃っています。最近、日本酒界で話題の千代酒造の篠峰や櫛羅、奈良県産以外では八海山など。シャンパーニュは大手メゾンのボトルが4種。ワインはブルゴーニュ中心で、種類は少ないです。プイィ・フュイッセ ヴィエイユ・ヴィーニュ2013をお願いしました。大ぶりのブルゴーニュグラスです。
先附は冬至かぼちゃ、南瓜の生麩、小豆。かぼちゃの上に南瓜の生麩をのせて、出汁の旨味のある餡をかけてあるます。12月に入り、寒い季節を意識したメニューとなっています。最後に匙をいただいて南瓜に餡を絡ませていただきました。
御椀は粕汁。根菜焼白子。油揚げ。白みそ仕立ての椀に白子と根菜の入った巾着。このなかに酒粕を潜ませ、溶けるにしたがって味わいが変化するのを楽しみます。優しい味わいの一品。
肴は本来、生魚のお造りが出る場面だろうが、マナガツオの三二(ミニ)ちらしは、マナカツオを3日寝かせて、熟成させ旨味を抽出している。江戸前寿司に見る仕事を感じる。
焚物は丸と大根。すっぽんと大根。スッポンの旨味が凝縮した汁が大根に染み入り、上品な味わいのするを楽しみます。体が温まる皿です。
八寸「冬支度」。八寸と言っても盛り合わせ料理ではなく、冬の白のイメージの料理を組み合わせています。宇陀金牛蒡 寒牡丹。蕪ピューレ。大和の伝統野菜の宇陀市の牛蒡、出汁で味を付け揚げたもの。これにレンコン、エノキ、マッシュルームなどの白、蕪ピューレがビジュアル面でも美しいです。
八寸は懐石料理独特のものだが、酒とのマリアージュを考えると難しい。酒の肴の盛り合わせとしては楽しいが、料理人が料理のコンセプトを一つの皿に表現するという、クリエイティブな料理の創作活動の制約となるため、既成の枠にとらわれない、むしろフランス料理などと共通するものになっています。
焼物、寒鰤つみれのかぎろひ焼き。寒鰤を敢えてつみれにしてから焼くという大胆な発想の焼き物。下には小豆島の幻煌焼(かぎろひやき)の皿の上に板状の固形醤油があり、削ってつみれに味を付けていく。ビーツのチップが彩りを添えています。
蔬菜、和彩サラダ、林檎ソース。本格的な和食でサラダは珍しく、これも挑戦的な一皿。色彩が鮮やかな伝統野菜を中心としたサラダ。赤蕪、紫大根などの根菜類が甘く、林檎ソースと共に初冬の季節を感じます。
〆の蕎麦は鴨のせいろ。ご主人が修行時代から趣味で打ってきた蕎麦は、蕎麦専門店以上の水準。細い質感のしっかりとした蕎麦は繊細で香りが立つ。八ヶ岳産蕎麦粉を使用。出汁が凝縮したやや濃いめの鴨のつけ汁は、これもまた冬の季節を感じさせます。蕎麦を食した後、旨味たっぷりのつけ汁を蕎麦かゆにしてくれたが、これも逸品です。
菓子。「春日おん祭り」暁餅。デザートは春日大社のおん祭りをイメージしたもの。世界文化遺産に登録された春日大社の11月29日の深夜に密かに行われるおん祭りをイメージしたデザートです。灯籠の幽かな光の下で、暁餅を奉納するというもの。苺の周りを小豆と糯米で包んだもの。苺が甘いため、周りの甘さに負けずに程よい酸味となっている。苺の甘さが足りない場合は砂糖で煮ることもあるとのこと。蝋燭の光の演出で歴史文化を感じる一品でした。
料理全体を通して日本料理の既存の枠にとらわれない、クリエイティブで、意欲的な、テロワール、歴史、伝統、文化、ストーリー性など様々な要素が加わった、総合芸術としての料理の完成度の高さを感じます。日本酒やワインの料理とのペアリングなどが提案されれば、さらにお店としてのレベルがアップすることでしょう。