香港の九龍半島の南端、チム・シャー・チョイ尖沙咀Tsim Sha Tsuiの東、紅磡駅に近いホテル・アイコンHotel ICONは最近オープンしたスタイリッシュなホテル。このホテルはホテルおよび観光管理学院(School of Hotel and Tourism Management)を有する、隣接の香港理工大学が経営するホテルで、学生の研修生がインターンとして働いている。この最上階28階にある広東料理のレストランが天外天で、星は獲得していないものの、ミシュラン香港・マカオにも掲載されている。
窓の外には香港島の魔天楼とヴィクトリア湾が一望できる、素晴らしい眺めのダイニングルームである。中華料理のレストランとしては、かなりスタイリッシュなレストランだが、夜景を見せるため、部屋はかなり暗。メニューも読みづらく、写真もフラッシュなしではかなり不鮮明になる。
まず、水を何にするか聞くので、スパークリングウォーターを。一皿1ページのカラー写真付きのメニューは外国人にとってはありがたいが、ちょっとファミレス的なイメージでもある。
アペリティフのシャンパンは、リュイナールの白とロゼからロゼ・ブリュットを選ぶ。フローラルなベリーの香りとオレンジ色がかった鮮やかな色の果実味豊かなロゼである。
全般にこの店は料理を出すのが早い。高級レストランとしては珍しいことに、ワインをオーダーする前に料理が続いてサービスされる。
まず、ブレス産鳩の燻製、烏龍茶添えSmoked Bresse Pigeon with Oolong Tea Leaves (whole) 凍頂烏龍茶燻鴿 (全隻) $168。当店のスペシャリテの一つ。鳩を一羽燻製にしてカリカリに炒めた烏龍茶葉をまぶしたもの。鳩のローストは代表的な広東料理のメニューだが、ブレス産というところが、スタイリッシュなこのレストランらしい。柔らかい肉質で、スモークすることにより鳩特有のくせのある香りをマイルドにして食べやすくなっている。表面のパリパリ感はないが、燻製香は強めで、薄味で肉質はジューシーである。烏龍茶の香りは燻製香で消されているため、もう少しあってもよい。
奥の壁が天井までワインセラーになっているのだが、ワインのサービスは熱心ではないようだ。あまりの料理のサービスの速さに、直ちにワインをオーダーする。残りのシーフードのメニューと料理の繊細で甘い傾向に合わせて、ルフレーブのピュイリニー・モンラシェ2009を注文したところ、趣旨を理解してくれて、直ちにボトルクーラーなどを準備してくれた。(当然だが、そうでないところもあったので。)
北海道産ホタテの蒸し物。季節メニューからオーダーした品。日本産食材は香港ではブランドのようだ。帆立、海苔、三つ葉、生姜などの素材を用いて、日本をイメージした料理だが、北海道産帆立が今一つ新鮮でないし、味付けもアクセントがなく淡白である。とろみがかかっていてソフトでエレガントだが、帆立特有の香ばしさや繊維の食感に乏しく、メリハリのない料理になっている。
蒸しロブスターの卵白、トリュフ添え。黑松露芙蓉龍蝦球 (每位) Steamed Lobster with Egg White and Black Truffles (per person)。ロブスターの新鮮な食感がコリコリと存在感があり、甘く優しい味わいのエレガントな料理。トリュフの香りでアクセントを付けようとしているが、香りは控えめである。
蟹の甲羅揚げBaked Stuffed Crab Shell焗釀鮮蟹蓋 (每隻) $118 (per piece)ふんわりとした蟹肉と玉ねぎ、チーズ、ほんのりカレー風味のホワイトとースの詰まったグララン。これも甘くエレガントな味わいで、こちらはお好みでウスターソース(XO醤?)が用意されていた。余りにも甘いので、アクセントを付けるためだろう。長崎で食べる皿うどんと同じである。ちょっとファミレス的でベタな味わいではあるが、蟹の旨味と甘さ、ふんわりソフトな食感、こんがりと香ばしい食感など、最高レベルの料理であった。シェアしないで一人一個注文すべき料理である。
ただ、ベースが甘い料理なので、この日のワイン、ルフレーブの2009のピュリニー・モンラシェでもちょっと酸が際立つことになった。ルフレーブが予想以上に酸味がしっかりとエレガントに造っていたことも原因である。カリフォルニアのシャルドネやコンドリュウかアルザスのピノ・グリあたりの方が良いかもしれない。
四川風海老のニンニク・チリソース炒め 四川魚香蝦球 $288 Sichuan Style Fried Prawns with Garlic and Chilli Sauce。日本の中華料理と比較の意味でクラシックな料理のおすすめメニューの中から、いわゆるエビチリをオーダーし、メニューにはないがハーフポーションにしてもらった。確かに日本のエビチリに似ているが、海老に存在感があり、ソースは辛くなく、トマトの酸味も控えめで、エレガントでクリーミーな味わい。主役の海老を引き立てていて、豆鼓も日本のものと違ってしょっぱくなく、甘くてコクがある。日本の高級中華料理店のエビチリよりもはるかにレベルの高さを感じる。
総合的に見て、内装や雰囲気は創作系の中華料理レストランのイメージで、料理もトリュフや日本の食材の使用など創作性の高い料理を前面に出しているが、料理の本質は、古典的な広東料理の店ということができる。甘くソフトで、エレガントな広東料理の特色が随所に感じられる。ややメリハリがなく、香辛料の使い方などに、もう少し複雑性があってもよいだろうが、日本の中華料理のレベルと比較すると、トップクラスの店に比肩する程度の実力があるレストランだろう。
ワインは1000本以上そろえているそうで、素晴らしいワインリストがあり、多くの客がワインを楽しんでいるが、スタッフのワインの知識は今一つといったところ。
客の動向にはきめ細かく配慮するなどサービスレベルは高いが、サービスのスピードが速すぎる傾向があり、ゆっくり食事を楽しむには早めにワインをオーダーした方が良いだろう。