神楽坂といっても、神楽坂の通りから本多横丁を北に進んだ筑土八幡町にある、狭い路地の突き当たりにある古い民家を改造した和食レストラン。玄関では靴を脱いであがる。神楽坂では料亭を改装したレストラン、ダイニングバー、ワインバーなどが最近かなりオープンしているようだが、ここは普通の民家で、築50年以上はたっているようだ。
メインの部屋は畳の和室にテーブルを置いた和洋折衷スタイル。こちらの料理のスタイルと同じである。外にはお庭の緑がライトアップされていて美しい。外国人が喜びそうな空間である。
フランスワインを料理と楽しむイベント、ジュルネ・デュ・ヴァンの第2回のテーマはラングドックとシュッド・ウェスト。このお店で11月20日から実施されている6500円予約プランは、6品のコースの料理にラングドックのワイン、赤と白の2杯がセットされる。
白ワインは、ドメーヌ・ド・ラ・レゼルヴ・ドォ・ド・ブラン・ヴァン・ド・フランス2011。自然派、ビオ・ディナミの生産者で、2011年のヴィンテージだがかなり濃い麦藁色。酸は少なくふくよかで、ビオ系の生産者なのだろうか、少し酸化熟成したニュアンスがある。
先付けは「秋野菜と地鶏のテリーヌワカサギのエスカベッシュ」。テリーヌは地鶏の挽肉やレバーに秋野菜の新鮮な食感がほどよいボリューム感と味わいのバランスを与えているため、グラスの白ワインが良く合う。ワカサギのエスカベッシュは唐揚げをマリネしたもの。土佐酢でマリネしているためか、日本料理の南蛮漬けのニュアンスが強く感じられる。
お造りは「秋の鮮魚特製ソース和え 彩り薬味野菜」。鯛の刺身のサラダ仕立てで、胡麻と昆布のドレッシングをかけたもの。中華料理の海鮮サラダのイメージに近いが、鯛は新鮮でプリプリしている。胡麻のクリーミーなボリューム感がスパイシーで、スパイシーな南仏のビオ系の白ワインに良く合う。
焼き肴は「秋鮭ミ・キュイ セレベスロースト」。火入れは半生の料理、ミ・キュイとしては火入れがやや強めだが、醪ソースとジェベーゼソースとう2種のソースが添えられ、ほとんどフランス料理に近い。やや甘くコクのある醪ソースが秋鮭良くマッチして、西京焼きのようなニュアンス。別にカリカリに焼いた皮は香ばしい。最近ではパリのフレンチ・レストランでも、味噌ソースが使われているため、フランス料理としても違和感はない。発酵食品のいかにも日本的な味わいだが、これもビオ系の酸が少なく、酵母による自然な熟成感の感じられるワインにぴったりだ。
セレベスは大型の里芋で、ローストはふんわり、ほくほくしている。平茸とカリっと揚げた薄切りレンコンが添えられていた。.
温物は「海鮮と根菜のトマトブイヤベース 紙鍋仕立て」。旅館で出る海鮮の寄せ鍋をトマトスープ仕立てにしたイメージである。予め火が入ったタラ、海老、ハマグリなどの海鮮やペコロスなどの野菜を卓上で熱々にしていただく。新鮮な海鮮と旨味が抽出されたスープとともに味わうことができる。これも南フランスの白ワインが合う。
食事は国産牛のカットステーキ丼。とろろ芋が添えられ、牛タンの麦とろ丼風だが、麦飯ではなく米は新米を使用、甘辛のステーキソースがかかった丼である。肉は繊維がしっかりしているが、やわらかい。ワインはラングドックの赤ワイン、シネラー・ルージュ・シャトー・ド・カズヌーヴ2011を合わせる。タンニンはしっかりしているが、軽やかで、酒質が柔らかくふんわりとして、軽く甘みがあるため、甘辛だれの国産牛にとても良く合う。赤出汁のお吸い物が付く。
最後の本日の甘味は南瓜のプディン。リンゴと南瓜の甘煮がトッピングされている。プディングはほんのりとココナツの甘い香りがする。酸味の少ない白ワインがデザートワインの代役をして、かなり良く合う。
2011年のラングドックの柔らかさ、ほんわかとした温かさが、日本料理の食材に良くマッチしたメニューである。ワインは2杯では足りないので、カラフェで追加するのも良いだろう。
料理は日本料理ともフランス料理とも言えないような創作料理だが、良くある和風ダイニングよりもレベルの高いものを、和の雰囲気漂う古民家でワインと共にいただけるという非日常的体験は、会食や接待にも使えるだろう。
特に、日本を旅行する外国人を連れてくると喜びそうな店である。ワインはフランスやカリフォルニアのほか、国産ワインもあり、もちろん日本酒もある。